TIPPP’s blog

弁護士1年目。民訴オタクによる受験生のためのブログです。予備校では教わらないけど、知っていれば司法試験に役立つ知識を伝授します。https://twitter.com/TIPPPLawyer

第15回 「口頭弁論終結後の承継人」に拡張される既判力の内容

 

第1 導入

 既判力の効力を考えるにあたっては、「既判力の客観的範囲」と「既判力の主観的範囲」の議論をおさえることが必須となります。

 

 通常の教科書では、【(1) 既判力の客観的範囲】【(2) 既判力の主観的範囲】という小見出し(ないし中見出し)の形で、この2つが目次の表題とされていることも多いでしょう。

 

 そして、「口頭弁論終結後の承継人」について定めている115条1項3号は、もちろん、後者(「既判力の主観的範囲」)において議論されるテーマです。

 

 今回は、この「口頭弁論終結後の承継人」をテーマにしようと考えてます。

 

 紛争主体たる地位の承継説の説明でも始めるんかな?と思う方もいると思いますが、今回は「承継人の範囲」の論点については特に触れるつもりはありません。

 

 通常、「口頭弁論終結後の承継人」についての論点、といわれれば、皆さんは「承継人の範囲」についての議論がまずは頭に浮かぶでしょう。

 適格承継説、紛争主体たる地位の承継説、依存関係説といったやつらです。

 

 たしかに、「承継人の範囲」も深掘りすればまた面白い論点ではあるのですが、しかし、この論点は予備校本にもそれなりの記述がありますので、予備校本に譲ろうと思います。

 

 今回は「口頭弁論終結後の承継人」でも、「口頭弁論終結後の承継人に対して拡張される既判力の内容」について考えていこうと思います。

 

 僕的には、この議論は、分断されて考えられがちな【(1) 既判力の客観的範囲】【(2) 既判力の主観的範囲】の標目の相互関係を意識する上で有効な材料かなぁ、と思っています。

 

 

第2 前提事項の確認

 簡単にではありますが、115条1項3号について復習をします。

 

 まず、既判力は、当該確定判決に対応する訴訟の当事者間(原告と被告)にしか及ばないのが原則です(115条1項1号)。

 

 既判力の主観的範囲を確定するにあたっては、既判力の「機能」と「正当化根拠」に着目する必要がありました。

 

 既判力の「機能」は、「紛争解決の実効性確保」で、「正当化根拠」は「手続保障と自己責任」に求めることができます。

 

 そして、類型的に見て、「当事者」に既判力を及ぼせば「紛争解決の実効性確保」につながりますし、「手続保障」が充足されているのは、類型的にみて「当事者」であるといえますから、訴訟「当事者」には当然に既判力が拡張されると考えられることになるのです。

 

 しかし、115条1項2号~4号に該当する者については、(彼ら/彼女らは「当事者」ではありませんが)各号に該当する者に既判力を及ぼすことが「紛争解決の実効性確保」につながりますし、「手続保障の必要がない」か「代替的に手続保障がなされている」という事情があるので、例外的にこれらの者についても既判力が及ぶものとされています。

 

 ここまでが前提知識の確認です。

 

 既判力の主観的範囲(客観的範囲も)を考えるにあたっては、必ず既判力の「機能」と既判力の「正当化根拠」に立ち帰るくせをつけてください。

 

 

第3 口頭弁論終結後の承継人への既判力拡張の意味

1 問題提起

 さて、ここからが今回のメインテーマです。

 

 まずは、以下の事例を見て下さい。

 

土地所有者Xが建物所有者Yに対して建物収去・土地明渡請求の訴えを提起し、その認容判決が確定した。そして、その後に、Zが建物とともに敷地の借地権を取得するつもりで、建物をYから取得した。

 

 以上の事例において、前訴判決の既判力はZにどのように拡張されるかを考えていきましょう。

 

 まずは、既判力の客観的範囲について確認しますが、既判力は、判決理由中の判断については生じず、判決主文の判断について生じますね。

 

 つまり、上の事例において、XY訴訟で生じる既判力は、「XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という点に生じ、XとYは、その判断を基準時前の事由で争うことができないということになります。

 

 さて、それでは、この既判力をZとの関係でも拡張してみてください。

 

 すると、「XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という判断を、XとZが、基準時前の事由で争うことができない、ということになりそうですね。

 

 ……今の話を聞いて、この時点で、かかる結論に疑問を持ったという方も多いのではないでしょうか。

 

 その疑問を持っている方は、おそらく、以下のような答えを期待していたのではないでしょうか。

 

115条1項3号でXY訴訟の確定判決の既判力がZに拡張された結果、「XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という判断を、XとZが、前訴基準時前の事情で争うことができない。

 

 あまり意識したことがある人は多くないかもしれませんが、115条1項3号によって既判力が拡張される場合、①「前訴判決の既判力が、そのままの形で承継人に拡張される」(=「XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有する」の形で拡張)のか、②「前訴判決の既判力が、譲渡人の部分を承継人に書き換える形で、承継人に拡張される」(=「XがZがに対して建物収去土地明渡請求権を有する」の形で変容されて拡張)のか、どちらの拡張の仕方が正しいのでしょうか。

 

 結論としては、①②どちらの考え方も正しいのですが、いずれの立場を採るにしても、その論理的な説明はできるようにしておきましょう。

 

 以下のこの点を説明します。

 

2 「2段階」に渡る既判力の拡張

 口頭弁論終結後の承継人への既判力の拡張を考えるにあたっては、次のように2段階に分けて考察すると分かりやすいと思います。

(1) 元の既判力

 前提として、XY訴訟判決の元の既判力の内容は、「Yは、XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの判断に拘束され、その判断を基準時前の事由で争えない」というものです。

 

(2) 第1段目の拡張

 第3の1で記述したように、XY訴訟判決の既判力をZへ拡張する場合、その拡張の仕方としては、まずは「Zは、XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの判断に拘束され、その判断を基準時前の事由で争えない」というものが考えられます。

 

 これは、①で記述した、「前訴判決の既判力が、そのままの形で承継人に拡張される」(=「XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有する」の形で拡張)という拡張の仕方、ということになります。

 

 この第1段目の拡張は当然に認められることになります。

 

 そして、「口頭弁論終結後の承継人」への既判力の拡張を、この「第1段目」の拡張にとどめるとしたならば、既判力の拡張が意味を持つのは、前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決的な法律関係にある場合、ということになります。さもないと、既判力を拡張としても意味がありません。

※ この点はよく、「既判力の作用場面」という議論として整理される話ですが、「既判力の作用場面」の議論は、受験生の九割方が誤った整理をしています。今回はこの点までには踏み込みませんが、いずれ記事にしようと思います。

 

 さて、問題は、次の第2段目の拡張まで許されるのか、という点となります。

 

(2) 第2段目の拡張

 第2段目の拡張とは、②で記述した、「前訴判決の既判力が、譲渡人の部分を承継人に書き換える形で、承継人に拡張される」(=「XがZがに対して建物収去土地明渡請求権を有する」の形で変容されて拡張)という拡張形式ということになります。

 

 この拡張は、「XのYに対する建物収去明渡請求権」についての既判力を「XのZに対する建物明渡請求権」という形で拡張するものとなります。

 

 ②の形として拡張された既判力は、その効力を分解すると

 

  1. XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの主張(Xの所有地にZが無権限で建物を所有しているという事実によりZがXに対して建物収去土地明渡請求義務を原始的に負っているとの主張)を
  2. 既判力の基準時前の事由(ex.前訴の口頭弁論終結時に、Xが土地所有権を有していないこと、あるいは、Yが借地権を有していたこと[それを口頭弁論終結後にZが承継したこと])で争うことは禁止される、

 

という内容になるでしょう。

 

 

3 「2段目」の拡張まで認めるべきか

(1) 「形式説」と「実質説」の確認

 さて、「1段目」の拡張までは問題なく認められることは当然のことと思えそうですが、問題は「2段目」の拡張まで認めることができるのか、という点です。

 

 この点については、中野貞一郎先生が以下のように述べています。

 

「既判力拡張ならば承継人は既判力をもって確定された他人間の権利義務の存否を争えないだけである」。

 

 これは、「承継人(=Z)」は「既判力をもって確定された他人間の権利義務の存否(=XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの判断)」を「争えない」ということを述べているものです。

 

 したがって、中野先生は、「第1段目」の拡張までしか認められない、と述べていることになります。

 

 しかし、実質的な価値判断として、前訴判決で「XはYに対して建物明渡請求ができる」と判断がされたのですから、承継人との関係でも「XはZに対して建物明渡請求ができる」という点を問答無用で争わせないべき、と考える方も多いでしょう。

 

 この考え方は十分に納得できるものです。

 

 …また外堀から埋める形で説明をします。お付き合い願います。

 

 皆さんは、「固有の抗弁を有する者は、口頭弁論終結後の承継人たり得るか」という論点はご存知ですね?

 

 この論点については、形式説実質説の対立があることもご存知だと思います(基本論点なので知らない方は確認を!)

 

 形式説とは、固有の攻撃防御方法を有する第三者であっても、口頭弁論終結後の承継人として既判力が拡張される(ただし、当該第三者が固有の攻撃防御方法を提出することは当然に妨げられない)、という見解です。

 

 形式説によるならば、固有の攻撃防御方法を有する第三者であっても、「口頭弁論終結後の承継人」たり得るということになります。

 

 対して、実質説とは、固有の攻撃防御方法を持つ口頭弁論終結後の承継人には既判力は及ばないという見解です。

 

 実質説によるならば、固有の攻撃防御方法を有する第三者は、「口頭弁論終結後の承継人」たり得ないということになります。

 

 さて、なぜここで形式説と実質説の確認をしたかというと、実は「口頭弁論終結後の承継人」の解釈について、形式説と実質説のいずれを採るかによって、「口頭弁論終結後の承継人に拡張される既判力の内容」を第1段目にとどめるか、第2段目まで含めるかが決定されるといえるからなのです。

 

 まず、形式説を採った場合について見てみましょう。

 

(2) 形式説を採った場合

 形式説とは、「固有の攻撃防御方法を有する者であっても、口頭弁論終結後の承継人に該当し、既判力の拡張を受ける。もっとも、当該承継人が自己固有の攻撃防御方法を提出することは何ら妨げられない」という見解でしたね。

 

 この後段部分の「当該承継人が自己固有の攻撃防御方法を提出することは何ら妨げられない」という部分に注目してほしいのですが、「自己固有の攻撃防御方法を提出することは妨げられない」ということは、つまり、「自己固有の攻撃防御方法」の部分については既判力の射程が及んでいない、ということを意味しています

 

 そして、Zは、「XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という判断を争うための「自己固有の攻撃防御方法」は有しておりませんが、「XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という判断を争う「自己固有の攻撃防御方法」は有しているかもしれません。

 

 逆に言うと、形式説を採った場合に、Zに主張が許される「自己固有の攻撃防御方法」とは、「XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という判断を争うための攻撃防御方法ということになります。

 

 これはすなわち、「XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という判断については既判力が生じていないということを意味しますね。

 

 つまり、形式説を採用した場合には、必然的に、「口頭弁論終結後の承継人」に拡張される既判力は、第1段目の既判力に限定されることになります。

 

(3) 実質説を採った場合

 では、実質説を採った場合はどうなるでしょうか。

 

 これは、形式説を採った場合と逆に考えればよいです。

 

 実質説は、「自己固有の攻撃防御方法」を有する者は「口頭弁論終結後の承継人」たり得ず、この者に対する既判力の拡張は認められない、という結論となります。

 

 この実質説の考え方の前提には、115条1項3号の「口頭弁論終結後の承継人」にあたってしまえば、その承継人がたとえ「自己固有の攻撃防御方法」を有していたとしても、その攻撃防御方法の提出は既判力によって遮断される、という考え方があります

 

 だからこそ、実質説は、(自己固有の攻撃防御方法を有する承継人を守るために)「自己固有の攻撃防御方法を有する承継人」は「口頭弁論終結後の承継人」にあたらないとして、この者への既判力の拡張を否定しているのです。

 

 そして、前述したようにZにとっての「自己固有の攻撃防御方法」とは、「XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という判断を争うための攻撃防御方法です。

 

 つまり、Zが「自己固有の攻撃防御方法」を提出できないということは、(前訴基準時までの事情で)「XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有する」という判断を争えないということを意味しており、これは既判力の拡張が第2段目まで認められていることを意味します

 

(4) 小括

 さて、「口頭弁論終結後の承継人」について、形式説を採るのか、実質説を採るのかによって、「口頭弁論終結後の承継人」への既判力の拡張が第1段目までしか認められないのか、第2段目まで認められるのかが決せられるということがわかりました。

※ 「口頭弁論終結後の承継人」への既判力の拡張が第1段目までしか認められないのか、第2段目まで認められるのかによって、「口頭弁論終結後の承継人」について、形式説を採るのか、実質説を採るのかが決せられる、といっても間違いじゃないです。両者の議論はいわば必要十分関係的な位置づけが可能であり、どちらがどちらに先行する、ということはないと思います。

 

 したがって、受験的には、「口頭弁論終結後の承継人」に拡張される既判力の内容が、第1段目にとどまるのか、第2段目の拡張まで認められるのかを考える前に、まずはお馴染の「自己固有の抗弁を有する場合に、口頭弁論終結後の承継人たり得るか」の論点の方で、形式説を採るか、実質説を採るかを決めておくべきでしょう。

 

 形式説と実質説のいずれを採るべきなのか、いずれが判例の立場なのか、という点は、一概には言えません。

 

 ですので、受験生の皆さんは自分なりに納得できる方をとって、それに対応させる形で、「口頭弁論終結後の承継人」に拡張される既判力の内容を確定されるといいと思います。

 

 個人的には、既判力との関係では形式説をとるべきであると考えてはいます(執行力については当然に実質説です)。

 

 この点は、語ろうと思えばいくらでも語れるので、また回を改めて書こうと思います。

 

 

第4 まとめ

 今回は少々複雑な議論となった気がしますが、「口頭弁論終結後の承継人」に拡張される既判力の内容について、なんとなく疑問に思ったことがある人もいたのではないでしょうか。

 

 そのような方の疑問が多少なりとも解消できたら幸甚です。

 

 前にもいいましたが、既判力が絡む議論を深く探究することは、既判力の本質を理解する上で必須の作業です。

 

 そして、既判力の本質の理解度を問う問題は、必ず司法試験にでます。

 

 既判力に関する論点を多数説、少数説問わずゆっくりと考える作業は、得点をあげるための近道になると思います。

 

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