TIPPP’s blog

民訴オタクによる受験生のためのブログです。予備校では教わらないけど、知っていれば司法試験に役立つ知識を伝授します。

第1回 『請求の放棄・認諾の既判力』

 

第1 導入

 記念すべき初投稿は『請求の放棄・認諾の既判力』というテーマで書いてみます。

 以前、某予備校の予備試験の答案を添削していたところ出会ったテーマであって、受験生の大好き(でも、大嫌い。アンビバレントな感情。)な「既判力」の理解を深めるために有意義なテーマだと思ってこれにしました。

 

 勉強の進んでいる受験生ならば、「請求の放棄・認諾に既判力は認められますか?」と質問されれば、「認められるけど、無効・取消原因がない限り既判力があるとする『制限的既判力説』が通説です!」と答えるでしょう。

 

 正解です。

 しかし、「制限的既判力説」の「制限的」ってなんでしょうか。

 既判力の何が「制限」されるのでしょうか

 

 既判力とは、「確定判決の判断内容の後訴での通用力」といわれており、その作用は、消極的作用と積極的作用に分類されます。

 

 つまり、既判力には、「当事者は既判力の生じた判断を基準時前に生じた事由で争うことは許されず、後訴裁判所はこれを争う当事者の申立てや主張を排斥しなければならない」という効力(消極的作用)と「後訴裁判所は前訴の既判力で確定された判断に拘束され、これを前提として後訴の審判をしなければならない」という効力(積極的作用)の二つがあると、多くの方は理解しているはずです。

 

 するとどうでしょう。「制限的既判力説」は、既判力の効力の何を「制限」しているのでしょうか。

 制限的既判力説とは、「無効・取消原因がない限り既判力がある」という説であって、既判力という効力自体(消極的作用or積極的作用)には何らの制限も課していないように見えます。

 

 今回のトピックではこの点に回答していこうと思います。

 

第2 問題提起

 請求の放棄・認諾について、放棄・認諾調書に既判力が生じるか、という点については、再審に準じる訴えを経由しない放棄・認諾の無効取消しの主張を認めるかに関連して争いがあります。

 たとえば、以下のような事例が想定されます。

 

XがYに対して、100万円の貸金返還請求訴訟を提起。この訴訟係属中、XはYに対して、請求を正当と認めてくれるのであれば、X所有の時価100万円相当の甲自動車を贈与する旨の申込みをした。Yは、これに応じ、期日にXの請求に理由があると認めて争わない旨の陳述をし、訴訟は終了した。もっとも、甲自動車は使用に耐えないものであり、実際には100万円相当の価値もないものであった。このような場合、Yは、錯誤に基づくものであったとして、Xの請求に理由があると認めて争わない旨の陳述が無効であることを主張できるか。

 

 これは有名論点であり、司法試験受験生ならば知らないとマズい。

 

第3 論証の内容 

 「請求の放棄・認諾について、放棄・認諾調書に既判力が生じるか」という論点に対する回答としては、以下の点を記載するのが典型的な回答パターンだと教え込まれているはずです。

 

① 前提として、Yの陳述は請求の認諾に当たる。

② もっとも、錯誤は再審事由に当たらないため(338条1項参照)、再審の訴えに準

 じる方法により認諾の無効を主張することはできない。

 ➔ そこで、再審の訴えに準じる方法以外の方法による認諾の無効の主張の可能性を

  検討。

③ 前提として、既判力が認められれば、再審事由に当たらない錯誤無効は主張できな

 いと考えるのが自然。

 ➔ そこで、放棄・認諾調書に既判力(114条1項)は認められるか。あるいは、既判

  力は認められても、認諾の無効を主張することができるか。

④ 既判力否定説の紹介 

  しかし、既判力を認めないと、放棄・認諾の紛争解決機能が大きく害される。

⑤ そこで、既判力は認められるが、意思表示の瑕疵による放棄・認諾の無効・取消し

 を主張して手続の続行を求めることもできると考える(制限的既判力説)。

 

 以上の論証の概要は、多くの予備校本でも見られる内容だと思います。

 

 しかし、より本質的な理解をするためには、「第1 導入」の部分にも掲げたように、「制限的既判力説」は、既判力の何を「制限」しているのかという点に答えられるようにしておくとよいと思います。

 

 この答えを理解することは、実は既判力の2つの側面を理解することにつながります。

 

 ところで、受験生の皆さんは、「訴訟行為に民法の意思表示規定の適用が認められるか」、という論点をご存知だと思います。

 

 この論点は、[当事者の訴訟行為に意思表示の瑕疵があった場合、意思表示に関する民法の規定を類推適用できるか]といった形で問題となりますね。

※ ここでは、便宜上、「訴えの取下げや請求の放棄・認諾に対して、民法の意思表示規定を根拠にその無効主張・取消しが認められるか」という論点を「論点A」、「請求の放棄・認諾について、放棄・認諾調書に既判力が生じるか」という論点を「論点B」とさせていただきます。

 

 論点Aの具体的な設問としては、[XのYに対する損害賠償請求訴訟において、X勝訴後の控訴審係属中、Xは請求の放棄をした。その後、Xは、この請求の放棄は、Yの脅迫によるものであり、真意に基づかないものであるから取り消す旨の意思表示をした。このような場合、Xの請求の放棄の取消しは認められるか。]というように、訴えの取下げや請求の放棄に対して、民法の意思表示規定を根拠にその取消しや無効主張が認められるか、というものが多いと思います。

 

 そして、論点Aの論証としては、

① 訴訟では表示主義・外観主義が貫徹されるから、訴訟行為には原則として民法の意

 思表示規定の類推適用はない。

② もっとも、(訴えの取下げや請求の放棄のように)訴訟手続を終了させる行為は、

 それ以上の訴訟行為が積み重ねられるということがなく、手続の安定は要求されな

 い。

③ よって、これらの場合には、例外的に意思表示に関する民法の規定を類推適用する

 ことができる。

 というお馴染の論証がなされますよね。

 

 しかし、ここで「?」と思いませんか?

 

 あれ?論点B(「請求の放棄・認諾について、放棄・認諾調書に既判力が生じるか」)の論証はどこいった?って思いませんか?

 

 そうなんです。みなさんが感じているとおり、訴えの取下げや請求の放棄に対して、民法の意思表示規定を根拠にその取消し・無効主張が認められるか、ということが問題となった場合、論点Aの論証だけでは足りず、論点Bの論証が要求されるのです。論点A、論点B、どちらか一つの論証だけでは足りません(この手の問題が出題されたときに、条件反射的に論点Aと論点Bの二つを書くことが身についている方はとても素晴らしいですが、この際、両者の関係性を理解しているかどうかについて自問自答してみてください。)。

 

 予備校本などでは、論点Aの論証の結論部分が「よって、これらの場合には、例外的に意思表示に関する民法の規定を類推適用することができる。」といかにも、論点Aと論証だけで、設問に対する回答が終了しているような書きぶりがなされていることが多いので注意してください。

 

 それでは、なぜ、論点Bの論証が必要となるのでしょうか。

 

 結論からいうと、「既判力が認められる(可能性がある)」から論点Bの論証が必要となるのです。

 

 どういうことかというと、「既判力があると、意思表示規定の類推適用による取消しはそう簡単には認られない」のです。

 

 さらにいうと

 

 「既判力には、『一度生じた訴訟終了効を取消すという主張は許さない』という効力がある」

 

ということなのです。

 

 この効力は、既判力の瑕疵治癒力と呼ばれたりします。

 

 この点は、言われてみればそりゃそうだ、と思う人も多いかもしれませんが、あまり意識的に理解されていない部分なので注意してください。

 

 つまり、既判力には、2つの効力を観念することができるのです。

 

① 判決主文と矛盾する主張・判断を許さないという効力(消極的作用・積極的作

 用)拘束力)。

② 判決が適法に形成されていないとの攻撃を許さない(無効・取消し原因がある

 との主張を許さない)という効力(瑕疵治癒力)。

 

 通常、判決では、②は①の陰に隠れてほとんど問題にならず、前者にばかり目が行きます。

 しかし、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解といった場面では、当事者の「意思」が関係するため、②の問題が浮上します。

 

 つまり、

➡︎ 制限的既判力説は前者の機能を肯定するが、後者の機能を否定し、既判力概念を分

 断する。

➡︎ 既判力否定説は、後者の機能を否定し無効、取消しの主張を許すが、それと共に前

 者の機能をも否定してしまう。

という関係があるのです。

 

 なお、民法の意思表示規定の類推適用が認められるとされる場面としては、①訴訟手続を終了させる行為(訴訟上の和解、請求の放棄・認諾等)の他に、②訴訟前・訴訟外の訴訟行為(管轄の合意、代理権の付与、証拠契約等)もありますが、②については、当然に論点Aの論証しか必要ないので注意してください。

 あくまで、請求の放棄・認諾といった場面では、既判力が問題となり、同時に既判力の「瑕疵治癒力」が問題となるからこそ、その「瑕疵治癒力」を制限するための論証(制限的既判力説)が必要となるのです。

 

 第4 まとめ

 以上、「請求の放棄(認諾)」について、民法の意思表示規定の類推適用による無効主張・取消しが認められるか、という問題に対する回答の順序は以下のようになります。

 なお、以下では96条の類推適用で書いています。

 

1(1) 請求の放棄は訴訟行為であるが、そもそも訴訟行為について、民法の意思表示規

  定の類推適用が可能か。

 (2) そもそも、当事者の訴訟行為は、裁判所に対してなされるのが通常であり、手続

  の安定及び公的な陳述として明確性が強く要請されるから、訴訟では表示主義・外

  観主義が貫徹される。

   よって、訴訟行為には、原則として意思表示に関する民法の規定は類推適用され

  ないと解する。

   もっとも、①訴訟前・訴訟外の訴訟行為(管轄の合意、代理権の付与、証拠契約

  等)は、訴訟手続との直接の関連性がなく、また、②訴訟手続を終了させる行為 

  (訴訟上の和解、請求の放棄・認諾、訴えの取下げ)には、それ以上の訴訟行為が

  積み重ねられるということがなく、手続の安定は要求されない。

   そこで、これらの場合には、例外的に意思表示に関する民法の規定を類推適用す

  ることができると解する。

 (3) 本問の場合、請求の放棄は、訴訟手続を終了させる行為であり、それ以上の訴

  訟行為が積み重ねられるということがなく、手続の安定は要求されない。

   よって、例外的に意思表示に関する民法の規定を類推適用することができる。

2(1) もっとも、本件で民法96条1項による取消しが主張されている訴訟行為である請

  求の放棄に既判力が認められれば、その取消しの主張が許されないように思える。

   そこで、請求の放棄調書に既判力が認められるか、あるいは、既判力は認められ

  ても、認諾の取消しを主張することができるかが問題となる。

 (2) この点、放棄・認諾が当事者の意思に基づく自主的紛争解決手段であること等を

  理由に、これを否定する見解もある(既判力否定説)。

   しかし、既判力を一切認めないと、当事者はなんらの訴訟上の制約なしにその

  記載内容を争えることになり、放棄・認諾の紛争解決機能が大きく害される。

   そこで、既判力の判決主文と矛盾する主張を許さないという側面(拘束力)は認

  めるべきである。

   もっとも、放棄・認諾は当事者の意思表示によるものであるから、その意思表示

  に瑕疵・欠缺があった場合は、既判力の拘束力を正当化する基礎を欠くことにな

  る。

   そこで、既判力の判決が適法に形成されていないとの攻撃を許さない(無効・取

  消し原因があるとの主張を許さない)という側面(瑕疵治癒力)は認められないと

  考える。

   したがって、請求の放棄の取消しを主張し、期日指定を申し立てて、訴訟終了効

  自体を争うことができ、これが認められれば手続の続行ができるものと考える。

  

 第5 おわりに

 以上です。

 既判力には、①拘束力と②瑕疵治癒力がある。

 これが問題の本質であり、このことを理解しておくとドヤれます。

 

 既判力はほぼ100%、司法試験にでます。

 既判力はその本質を理解できれば、一気に得点源となります。

 少し回り道には感じるかもしれませんが、既判力に関する深い議論にあたってみると、既判力の本質をすんなりと飲み込めるようになりますよ!

 

 

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