TIPPP’s blog

弁護士1年目。民訴オタクによる受験生のためのブログです。予備校では教わらないけど、知っていれば司法試験に役立つ知識を伝授します。https://twitter.com/TIPPPLawyer

第5回「多数当事者訴訟における『訴訟共同の必要』と『合一確定の必要』」

 

第1 導入

 最近、予備試験答練の添削をしておりましたところ、同時審判申出訴訟において共同被告の片方が裁判上の自白をした、ということを前提とした設問がありました。

 簡単に言うと以下のような事例です。

 

 X(売主)がY(代理人)とZ(買主・本人)を共同被告として共同訴訟を提起しました。

 Zに対しては売却代金支払請求、Yに対しては無権代理人の責任の基づく損害賠償請求(民法117条参照)がなされています。

 その訴訟で同時審判の申出がなされ、本件訴訟はいわゆる「同時審判申出共同訴訟」となりました。

 当初、Zは本件売買契約がYによる無権代理によって締結されたものであることを主張しておりましたが、訴訟が進行するについて、Zは敗訴を確信しました。

 そこで、同時審判の申出がなされた後の口頭弁論期日において、ZはYに対する代理権授与について自白をしました。

 

 以上が本問の事実関係ですが、「そもそもZの裁判上の自白は認められるのか」という点について、「訴訟共同の必要」「合一確定の必要」という概念の理解を深める形で説明していきたいと思います。

 

 

 第2 「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」とは

 受験生の皆さんは「訴訟共同の必要」「合一確定の必要」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 

 「合一確定の必要」の方は予備校の教科書にも書いてあるワードなので聞いたことがある人も多いかもしれません。

 対して、「訴訟共同の必要」の方はあまり聞いたことがないと思います。

 

 両者は概念としてセットで押さえておくと非常に便利なので確認していこうと思います。

 

1 「訴訟共同の必要」 

 まずは「訴訟共同の必要」という概念から説明します。

 

 「訴訟共同の必要」とは、簡単に言うと

 

 その訴訟が一定の範囲の者の共同訴訟となることが要求されること

 

であります。

 

 もっと簡単に言うと

 

 「訴え提起の段階(スタートの段階)でみんなで当事者になっていなくてはならないか

 

ということです。

 

  多数当事者訴訟の中には、一定の範囲の者が全員当事者とならなければ却下される訴訟形態がありますね。 

 おわかりとは思いますが、固有必要的共同訴訟がそれです。

 

 当事者適格の問題とも深く関わりますが、固有必要的共同訴訟は「当事者となりえる者」全員が当事者となってないと、訴え自体が却下されます。

 

 つまり、固有必要的共同訴訟は「訴訟共同の必要」が要請される場合であると言えることになります。

 

 対して、通常共同訴訟は「当事者となりえる者」全員を当事者としなくても訴えを却下されるといったことにはなりませんね。

 つまり、通常共同訴訟は「訴訟共同の必要」が要請されない場合であるといえます。

 

 では、類似必要的共同訴訟はどうでしょう。考えてみてください。

 

 類似必要的共同訴訟は、会社関係訴訟に多いですが、たとえば、株主総会決議取消訴訟が典型的な例としてあげられます。

 そして、株主総会決議取消訴訟については、株主等の一定の身分を有する人が一人で訴えを提起することができますよね。

 訴訟を提起した株主等以外の他の株主等がその訴訟に参加することはできますが、スタートの段階では株主等が全員当事者になっている必要はないのです。

 

 つまり、類似必要的共同訴訟も「当事者となりえる者」全員を当事者としなくても訴えが却下されることはないですから、「訴訟共同の必要」が要請されない場合であるといえます。

 

 この時点で「訴訟共同の必要」がまだよくわからん、という人も以下を読み進めていけば分かってくると思うのでご安心を!

 

2 「合一確定の必要」

 次は「合一確定の必要」です。

 

 前述のように、この概念については理解されている受験生も多いかもしれません。

 

 「合一確定の必要」とは、

 

 「民訴法40条によって「裁判資料の統一」と「手続進行(訴訟追行)の統一」が要求されること

 

という概念です。

 

 ここで「裁判資料の統一」と「手続進行の統一」について、整理しておきます。

 

(1) 「裁判資料の統一」 

 「裁判資料の統一」には2つの内容(規範①と規範②と呼ぶことにします)があります。

 

 まず、規範①として、「共同訴訟の一人のなした訴訟行為は、共同訴訟人全員について有利なものは全員に効力を生じる」というものです。

 これは、40条1項に規定されています。

 なお、「不利な行為は共同訴訟人全員に効力を生じない(行為者についても効力を生じない)」という内容も含まれることはご存知のとおりです。

 

 次に、規範②として、「共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は、その有利、不利にかかわらず全員に効力を生じる」という内容があります。

 たとえば、期日に一人でも出頭していれば、相手方は準備書面に記載していない事実をも主張できる、ということになります。

 これは、40条2項に規定されています。

 

 このように、「裁判資料の統一」の内容は、40条1項、2項そのままなので、超基本事項として覚えておいてください。

 

 なお、なにをもって「有利」「不利」なのか、という部分については解釈の仕方に争いがありますが、今回は割愛します。

 一応は、手続を展開させるもの(否認・出席等)が有利と判断され、手続をその限りで止めてしまうもの(自白・和解等)が不利と判断される、といった程度に覚えておくといいでしょう。

 この点は、気が向いたら改めて書こうと思います。

 

(2) 「手続進行の統一」

 次に「手続進行の統一」ですが、この内容も規範❶と規範❷にわかれます。

 

 まず、規範❶は共同訴訟人の一人に中断・中止の事由を生じると、手続は全員につき停止される、というものです。

 このことは、40条3項に規定されています。

 

 次に、規範❷は、弁論の分離、一部判決は許されない、というものです。

 

(3) 「合一確定の必要」が要請される訴訟形態 

 では、「合一確定の必要」が要請される多数当事者訴訟の形態としてはどのようなものがあるでしょうか。 

 

 まず、必要的共同訴訟についてはどうでしょう。

 これは簡単ですね。必要的共同訴訟については、40条が適用されるのですから、「裁判資料の統一」も「手続進行の統一」も要請されるのは自明です。

 つまり、必要的共同訴訟は「合一確定の必要」が要請される訴訟形態であります。

 

 では、通常共同訴訟はどうでしょう。

 通常共同訴訟では、共同訴訟人独立の原則(39条)が働き、共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人の訴訟に影響を与えず、どんな訴訟行為であっても各共同訴訟人が自由にすることができますね。

 したがって、通常共同訴訟について「裁判資料の統一」が要求されないのは明らかです。

 また、通常共同訴訟は各訴訟が事実上束になっているにすぎないと考えられているので、共同訴訟人の一人について中断・中止の事由があっても、他の共同訴訟人の手続が停止することはありませんし、弁論の分離、一部判決も当然にすることができます。

 したがって、通常共同訴訟について「手続進行の統一」が要求されないのは明らかです。

 

 つまり、通常共同訴訟は「合一確定の必要」が要求されない訴訟形態であるといえます。

 

 

第3 「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」の関係性 

 さて、これまで「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」を分断して見てきましたが、ここからは両者の関係について考えを巡らせてみましょう。

 ここからが正念場です。

 

 まず、「訴訟共同の必要」について、「訴訟のスタートの部分で関係者全員が当事者になっている必要があるか」という問題であることを前述しました。

 そして、その必要があるのが固有必要的共同訴訟であることも述べました。

 

 さて、これから受験生の理解を問う質問をします。

 

① 「固有必要的共同訴訟」の対概念はなんですか?

 

 これは簡単ですね。「通常共同訴訟」です。

 

② では、「必要的共同訴訟」の対概念はなんですか?

 

 これも簡単です。「通常共同訴訟」です。

 

③ では、[「固有必要的共同訴訟」であるならば「必要的共同訴訟」である]という命題は真ですか?

 

 これは真です。固有必要的共同訴訟は、必ず必要的共同訴訟となります。

 

③ では、[「類似必要的共同訴訟」であるならば「必要的共同訴訟」である]という命題は真ですか?

 

 これも真です。類似必要的共同訴訟は、必ず必要的共同訴訟となります。

 

④ では、[「必要的共同訴訟」であるならば「固有必要的共同訴訟」である]という命題は真ですか?

 

 これは真ではありません。つまり、「必要的共同訴訟」であっても「固有必要的共同訴訟」とは限らないのです。

 その例が思い浮かびますか?

 そうです。「類似必要的共同訴訟」です。

 

 ここまでの話を聞いて、若干概念の混乱が生じた人もいるのではないでしょうか。

 

 実は、「必要的共同訴訟」「通常共同訴訟」「固有必要的共同訴訟」「類似必要的共同訴訟」の概念・関係性の整理をすることが、今回の一番の目的といっても過言ではありません。

 

 

 前述しましたように、「訴訟共同の必要」とは「訴訟のスタート」の問題ですね。

 「訴訟のスタート」の時点で「訴訟共同」している必要があるか、という問題です。

 

 そして、「訴訟のスタート」の時点で「訴訟共同」している必要があるのは、固有必要的共同訴訟だけでした。

 

 逆に「訴訟のスタート」の時点で「訴訟共同」している必要がないのは、なんだったでしょう。

 そうです。類似必要的共同訴訟と通常共同訴訟です。

 

 ここまでの整理はいいですね?

 

 つまり、固有必要的共同訴訟か、類似必要的共同訴訟か、通常訴訟か、という問題は「訴訟のスタート」の段階で明らかにされてなくてはならないことになります。

 

 

 話は次のフェーズに移ります。

 

 

 では、固有必要的共同訴訟とされた場合、[「固有必要的共同訴訟」であるならば「必要的共同訴訟」である]という命題が真なのですから、その訴訟は「必要的共同訴訟」として扱われますね?

 

 さて、「必要的共同訴訟として扱われる」とはどういう意味でしょうか。

 

 これは、40条の適用があるということ、すなわち、「合一確定の必要」が要請されるということです。

 

 つまり、「訴訟のスタート」の段階で「訴訟共同の必要」が要請されて「固有必要的共同訴訟」として扱われることとなった訴訟は、「訴訟の進行」の場面では「合一確定の必要」が要請され(40条の適用を受けて)「必要的共同訴訟」として扱われるのです。

 

 では、類似必要的共同訴訟とされた場合はどうでしょう。

 

 類似必要的共同訴訟とされた場合、前述のように、「訴訟のスタート」の段階で「訴訟共同の必要」は要請されていません。

 

 もっとも、[「類似必要的共同訴訟」であるならば「必要的共同訴訟」である]という命題が真なのですから、これは「必要的共同訴訟」として扱われますね?

 

 ということは、類似必要的共同訴訟とされた場合、「訴訟の進行」の場面では、40条が適用されて「合一確定の必要」が要請されることになります。

 

 

 では、通常共同訴訟はどうでしょう。

 

 前述のように、通常共同訴訟は、「訴訟のスタート」の場面で「訴訟共同の必要」が要請されません。

 

 また、通常共同訴訟は当然に「必要的共同訴訟」ではないですから、「訴訟の進行」の段階で「合一確定の必要」も要請されません。

  

 気づいたでしょうか。

 

 実は、

 

 「訴訟共同の必要」は、「訴訟のスタート」の場面で、「固有必要的共同訴訟」「類似必要的共同訴訟」「通常共同訴訟」を分ける概念であり、

 

 「合一確定の必要」は、「訴訟の進行」の場面で、「必要的共同訴訟」「通常共同訴訟」を分ける概念なのです。

 

 もっというと、

 

 [「固有必要的共同訴訟」なのか、「類似必要的共同訴訟」なのか、「通常共同訴訟」なのか]という問題は「訴訟のスタート」の場面の問題であり、

 

 [「必要的共同訴訟」なのか、「通常共同訴訟」なのか]という問題は「訴訟の進行」の場面の問題なのです。

 

 

 図示すると以下のようになります。

 

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 「訴訟のスタート」の場面と「訴訟の進行」の場面は次元・土俵が違う問題です。

 

 この次元・土俵の違いをしっかりと意識してください。

 

 この違いを意識できるだけで、多数当事者訴訟の概念の理解はだいぶ進みます。

 

 なお、図からもわかるように、「通常共同訴訟」という概念は、「訴訟のスタート」と「訴訟の進行」のいずれの次元でも問題になる概念です。

 正確にいうならば、「通常共同訴訟」という概念には「訴訟のスタートの場面で用いる通常共同訴訟」という概念と「訴訟の進行の場面で用いる通常共同訴訟」という概念の2つがあることになります。

 

 

第4 同時審判申出共同訴訟の場合

1 同時審判申出共同訴訟に「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」は要請されるか 

 さて、では、応用問題として、同時審判申出共同訴訟について、「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」が要請されるかを考えてみましょう。

 

 同時審判申出共同訴訟のは、通常共同訴訟であることはご存知ですね。

 

 ということは、「訴訟のスタート」の場面で「訴訟共同の必要」は要請されますか?

 

 要請されません。通常共同訴訟なのだから当然です。

 

 では、「訴訟の進行」の場面で「合一確定の必要」は要請されますか?

 

 

 通常共同訴訟なのだから、「合一確定の必要」は要請されません!!……という答えをしたくなる気持ちはわかりますが、ちょっと落ち着いて考えてください。

  

 同時審判申出共同訴訟となった場合の効果はどうなりますか?

 

 41条を見てみましょう。

 

(同時審判の申出がある共同訴訟)

第41条 共同被告の一方に対する訴訟の目的である権利と共同被告の他方に対する訴訟の目的である権利とが法律上併存し得ない関係にある場合において、原告の申出があったときは、弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない。

2  前項の申出は、控訴審の口頭弁論の終結の時までにしなければならない。

3  第一項の場合において、各共同被告に係る控訴事件が同一の控訴裁判所に各別に係属するときは、弁論及び裁判は、併合してしなければならない。

 

 お気づきでしょうか。

 41条1項によると、同時審判申出があった場合には、「弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない」とされています。

 弁論の分離と一部判決が禁止されるのです。

 

 ということは、前述した「手続進行の統一」のうちの規範❷(弁論の分離、一部判決は許されない)は要請されることになります。

 

 また、弁論・裁判が分離できない以上、実際上は、他に共同被告の手続もあわせて訴訟全部が停止することになりますから、「手続進行の統一」のうちの規範❶(共同訴訟人の一人に中断・中止の事由を生じると、手続は全員につき停止される)も要請されると言われています。

 

 つまり、同時審判申出訴訟の場合、「訴訟共同の必要」は要求されませんが、(通常共同訴訟であるにもかかわらず)「合一確定の必要」のうちの「手続進行の統一」は要求されるのです。

 

2 同時審判申出共同訴訟における共同訴訟人の一人による裁判上の自白の可否

 では、同時審判の申出がなされた場合、共同訴訟人は和解や請求の放棄・認諾、裁判上の自白といった行為はできるでしょうか。

 

 もうわかりますね。同時審判申出共同訴訟は、「合一確定の必要」のうちの「手続進行の統一」は要求されますが、「訴訟共同の必要」は要求されません。

 

 ということは、一番最初に書いた「訴訟共同の必要」の規範①、規範②が要求されませんから、共同訴訟人の不利な行為でも自由にすることができます(40条1項の適用がないのですから当然です)。

 

 このように、同時審判申出共同訴訟の場合には、弁論及び裁判の分離が禁止される点を除いては、共同訴訟人独立の原則が妥当するのです。

 

 したがって、判決(裁判)ではない和解や請求の放棄・認諾は本条の適用対象ではなく、個別になされ得ますし、自白とかの不利な行為も共同被告の一方と原告との間で成立し拘束力を生じることになります。

 

 

第5 まとめ

 いかがだったでしょうか。

 

 まずは「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」の概念をおさえてください。

 

 両者は次元が異なる問題であり、前者は「訴訟のスタート」の問題、後者は「訴訟の進行」の問題であることを意識してください。

 

 そして、固有必要的共同訴訟、類似必要的共同訴訟、通常共同訴訟、必要的共同訴訟の各概念がどちらの次元で問題になるものなのかを意識してください。

 そうすれば、概念の整理はうまくできるようになります。

 

 

 「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」の概念の整理は、僕が重点講義を読んでいく中でかなり印象に残ったものでした。

 

 本当に便利な整理だったので理解することをおすすめします。

 

 

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