第13回 「補助参加の利益」の有無の検討の仕方
目次
第1 導入
今回はリクエストをいただいたので、補助参加をテーマに書こうと思います!
さて、補助参加については書きたいことがたくさんあるのですが、受験的に一番問われる可能性の高い「補助参加の利益」について説明していきたいと思います。
多数当事者訴訟は、各制度を横断的に眺めて、各制度の比較の中で当該制度を理解するというのが好ましい勉強法だと思っているのですが、この「補助参加」については、多数当事者訴訟の中でも一人だけ浮いている存在です。
通常共同訴訟、必要的共同訴訟、類似必要的共同訴訟、独立当事者参加、参加承継、引受承継と、多数当事者訴訟の章には、いろいろな訴訟制度が待ち構えているわけですが、今挙げた訴訟制度と補助参加の一番の違いは何でしょうか。
そうです、補助参加についてだけ「当事者として」訴訟に参加するわけではないのです。
「当事者として」訴訟に参加するわけではないということは、参加される側としては、その参加に対して唐突な印象を抱きざるを得ないことが多いということです。往々にして「誰だよお前…(´・Д・)」という気持ちになりがちです。
この「誰だよお前…(´・Д・)」感が、補助参加の要件、すなわち「補助参加の利益」を検討するする上で重要なファクターになってきます。
なんとなく興味を持っていただいたのではないでしょうか。このことを念頭に、以下、「補助参加の利益」の有無の検討の仕方について説明していこうと思います。
第2 「補助参加の利益」が認められるための要件
さて、おもいっきり前提事項の確認なのですが、「補助参加の利益」が認められるための要件、すなわち、「補助参加の利益」の定義について、皆さんは覚えていますでしょうか(覚えていないとちょっとやばいです!覚えていない方はこの機会に覚えておきましょう!)。
「補助参加の利益」とは、「他人間の訴訟の結果に利害関係を有すること」でしたね。
今回は、この「補助参加の利益」を「他人間の」「訴訟の結果に」「利害関係を有する」という3つに分断して、ひとつずつ検討していこうと思います。
第3 「他人間の」
まず、補助参加の利益を構成する一つ目の要素として、「他人間の」があります。
この要素については、「参加人は、自分が当事者になっていない訴訟に参加できるよ」ということを言っているものとなんとなく理解してる人がほとんどだと思います。
ぶっちゃけそのくらいの理解でも事足りるとは思うのですが、せっかくなんでもうちょっと深掘りしてみましょう。
まず、「他人間の」訴訟にしか参加できない、ということはつまり、「補助参加人が、その訴訟の当事者以外の第三者でないとならない」という意味合いであることはわかりますね。
そして、ここでいう「当事者」とは、「形式的当事者概念」によって決まります。
「形式的当事者概念」とは、「訴え又は訴えられることによって判決の名宛人となる者」を「当事者」として捉える見解です。
これに対して「実質的当事者概念」という言葉もあるのですが、これは簡単に言うと「当事者」を「権利の帰属主体」であると解する見解です。
「形式的当事者概念」、「実質的当事者概念」の考え方の違いは、当事者適格の問題や、訴訟の「承継人の範囲」の論点とも密接に関わっており、おもしろい議論ではあるのですが、本題とはずれるので割愛します。気が向いた時にこの点も書くかも!
さて、脱線しましたが、ここでいう「当事者」とは、「形式的当事者概念」によって決まります。大事なことなので二回言いました。
つまり、実体法上の権利が誰に帰属しているか、といったことは関係なしに、「訴え又は訴えられることによって判決の名宛人となる者」以外の者であれば、「他人間の」の要素はクリアすることになります。
ここで練習問題です。
Q1.訴訟担当における被担当者は、担当者のために補助参加することができるでしょ
うか。
A.答えは、「できる」です。
訴訟担当における被担当者は、訴訟物たる実体法上の権利帰属主体でありますから、実質的当事者概念を用いるならば「当事者」ということになります。
しかし、「当事者」とは、「形式的当事者概念」によって決まるのですから、判決の名宛人とならない被担当者は「当事者」ではないと解するのが正解となります。
Q2.では、共同訴訟人の一人は、他の共同訴訟人のために補助参加することができるで
しょうか
A.答えは、「できる」です。
当事者か否かは請求を基準として判断されるので、共同訴訟人の一人は他の共同訴訟人との関係では第三者とみなされ、他の共同訴訟人や相手方のための補助参加人となり得る。
このように、「他人間の」という要素を理解することは、民事訴訟における「当事者概念」を理解することにつながります。
そんなに大風呂敷を広げるような議論ではないのですが、覚えておくといいかもしれません。
第4 「利害関係を有する」
次は、ちょっと順番は前後しますが、説明の便宜上、「利害関係を有する」の要素について説明します。
1 「利害関係を有する」とは
さて、補助参加の利益が認められるための「利害関係を有する」とは、どのような内容を指すでしょうか。
この点に関しては、以下のような論証を見たことがあるのではないでしょうか。
この点、事実上の利害関係を有するだけで補助参加を認めてしまうと訴訟が過度に複雑化する。
そこで、「利害関係を有する」とは「法律上の利害関係を有する」ということを意味するものと解するべきである。
はい、そのとおりです。
しかし、「法律上の利害関係を有する」とは、どのような場合を指すのでしょうか。
2 「法律上の利害関係を有する」とは
この点に関しては、最判平13.1.30が以下のように述べています。
「法律上の利害関係を有する場合とは、当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいう」
では、「参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼす」とはどのような意味でしょうか。
3 「参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼす」とは
(1) 「参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益」とは
この点については、以下のような設例で説明されることがあります。
Q1.被告が敗訴すると被告の財産が減少することを理由として、原告とは別の債権者が
被告側に補助参加することは許されるか
A.「法律上の利害関係」といえるためには、「私法上・公法上の法的利益」でなければ
ならない。したがって、一般債権者は経済的利益を有するだけなので、債務者の訴訟
に補助参加することはできない。
Q2.当事者間の権利帰属の如何により第三者の行為が横領罪に当たるおそれがある場合
に、その第三者は補助参加することができるか。
A.法的利害関係には、公法上の法的利益も含まれるため、この場合も補助参加すること
ができる。
ここまでは、それなりに勉強をしている受験生ならばご存知ではないでしょうか。
ところで、上の2つのクエッションは、「参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益」の内容がどのような内容なのかを説明するための問いかけです。
さて、ここで気づいて欲しい点があります。
今問題にしているのは、「参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼす」とはどのような意味か、という点でしたね?
実は、上の2つのクエッションは、このうちの前段、すなわち、「参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益」のなんたるかは説明していますが、後段、すなわち、「影響を及ぼす」の部分がどのようなことを意味するのかを説明していていないのです。
実は、今回の記事で一番説明したかったのは、この「影響を及ぼす」の意味だったりします。
(2) 「影響を及ぼす」とは
では、当事者間の訴訟の結果が、参加人の私法上又は公法上の法的地位に「影響を及ぼす」とはどういう意味でしょうか。
ここも、いろいろな解釈の仕方があるのですが、僕が一番しっくり来た考え方をご紹介します。
まず、「影響を及ぼす」には、以下の2つのパターンがあります。
① 「法律上の影響を及ぼす」場合
② 「事実上の影響を及ぼす」場合
この2つのパターンについてそれぞれ説明します。
ア 「法律上の影響を及ぼす」場合
当事者間の訴訟の結果が、参加人の私法上又は公法上の法的地位に「法律上の影響を及ぼす」とはどのような意味でしょうか。
これは簡単で、「法律上の影響を及ぼす」場合とは、要は「判決効が及ぶ」場合ということになります。
典型例として、債権者代位訴訟における債務者、が考えられます。
債権者代位訴訟における債務者については、債権者と第三債務者との間の訴訟の確定判決の既判力が115条1項2号によって拡張されると言われていますね。
ですから、まさに、債権者代位訴訟における債務者は「判決効が及ぶ」場合にあたり、「法律上の影響を及ぼす」場合に該当することとなります。
ここで、ある程度勉強の進んでいる方なら気づくかもしれませんが、この場合の補助参加は、共同訴訟的補助参加ということになります。
共同訴訟的補助参加を知らないという方は、「そんなにヤバくはないけどちょっとヤバい」くらいのレベルなので、この機会に学習しておいてください。
一応確認しますと、共同訴訟的補助参加は、訴訟物につき当事者適格を欠くことから共同訴訟参加はできないが、当事者間の訴訟の既判力・執行力・形成力の及ぶ第三者が補助参加する場合をいいます。
共同訴訟的補助参加は、46条2号が適用されず、被参加人の訴訟行為と抵触する行為をすることができます。判決効が及ぶ者による参加であるため、被参加人が不利な訴訟行為をしたとしても、参加人は独立して有利な行為(抵触行為)ができるのです。
話を戻しますが、「法律上の影響を及ぼす」場合とは、「判決効が及ぶ」場合であって、判決効が拡張される参加人による補助参加は共同訴訟的補助参加なのですから、「法律上の影響を及ぼす」場合は、共同訴訟的補助参加の場面を説明していることになります。
そして、「法律上の影響」が及ぶ第三者が補助参加の利益を有することに争いはありません。
つまり、第三者が、(私法上又は公法上の法的利益に対して)当事者間の判決の効力の拡張により影響を及ぼされる場合には、「法律上の影響を及ぼす」場合に該当し、補助参加(共同訴訟的補助参加)が可能です。
イ 「事実上の影響を及ぼす」場合
次は、当事者間の訴訟の結果が、参加人の私法上又は公法上の法的地位に「事実上の影響を及ぼす」の意味について説明します。
実は、ここでも「事実上の影響を及ぼす」の意味合いが2つの類型に分かれます。すなわち、
❶ 「先決的・択一的な形で事実上の影響を及ぼす」場合(直接的影響を及ぼす場
合)
❷ 「先決的・択一的でない形で事実上の影響を及ぼす」場合(間接的影響しか及
ぼさない場合)
の2類型です。
なんのこっちゃって感じだと思うので説明します。
皆さんは、補助参加のメリットとデメリットをどう理解していますか?
補助参加には、訴訟遅延・複雑化というデメリットと資料の豊富化による審理の充実・参加人に権利主張の機会を保障するというメリットがある、と言われます。
実は、補助参加の利益の有無は、この「補助参加のデメリット」と「補助参加のメリット」を衡量して決定するのです。
この考え方は、訴訟要件の訴えの利益の有無を判断する手法と同様ですので、すんなり分かってもらえると思います。
さて、先程「法律上の影響を及ぼす」場合の意味合いについて説明しました。
「法律上の影響を及ぼす」場合とは、「当事者間の判決効が第三者に拡張されることにより、その第三者の私法上又は公法上の法的利益に波及的な影響が出る場合」でした。
とすると、「事実上の影響を及ぼす」場合とは、これとは反対に、「当事者間の判決効が第三者に拡張されるわけではないが、第三者の私法上又は公法上の法的利益に波及的な影響が出る場
合」ということになります。
つまり、「事実上の影響を及ぼす」場合のポイントは、「当事者間の判決効が拡張されない第三者」による補助参加の場面を土俵としているという点です。
そして、その「事実上の影響を及ぼす」場合に、前述した❶先決的・択一的関係にある場合と❷先決的・択一的関係にない場合の2パターンがあるのです。
まず、❶「先決的・択一的な形で事実上の影響を及ぼす」場合とは、当事者間の訴訟の結果(これは判決主文の判断でも判決理由中の判断でもいい、というのが通説です)が、第三者(参加人)の私法上又は公法上の法的利益と先決的・択一的関係にあることを意味します。
典型例としては、主債務者に対する主債務履行請求訴訟に保証人が補助参加する場合、を考えることができます。
なぜなら、主債務は実体法上、保証債務の先決関係にありますよね。つまり、債権者が主債務者に対して提起して提起した主債務履行請求訴訟ないし主債務存在確認訴訟で、主債務者が敗訴して、判決主文ないし判決理由中の判断で「主債務の存在」が確認されれば、それを先決問題とする保証人の「保証債務」も必然的に影響を受けるのです。
この場面を❶「先決的・択一的な形で事実上の影響を及ぼす」場合といいます。
次に、❷「先決的・択一的でない形で事実上の影響を及ぼす」場合とは、当事者間の訴訟の結果がどっちに転んだとしても、論理必然的に第三者(参加人)の私法上又は公法上の法的利益に影響を及ぼすわけではない(が、間接的には及ぼすおそれはある)場合をいいます。
わかりやすい例としては、東京高判平20.4.30(百選4版103)があります(僕が個人的に好きな判例です)。
簡単に言うと以下のような事例です。
AとBは二人で沖縄に旅行に行ってレンタカーを借り、Bが運転をしていました。しかし、Bが運転をするレンタカーがAを同乗させたまま、海へ転落し、Aは溺死しました。
ところで、Aは2つの保険(Y保険会社による「Y保険」とZ保険会社による「Z保険」)に加入しており、この2つの保険が今回の自己を保障対象にしていることが窺われました。
そこで、Aの相続人Xは、Yに対して、保険料の請求をしました。これに対してYは、「この事故は偶発性がない!すなわち、この事故は血迷ったBが自らの意思で海中に突っ込んだから生じたのだ!だから保険対象外!」と主張しました。そこで、この事件の中心的な争点は「当該事故の偶発性(=保険対象となる事故といえるか)」ということになりました。
そして、この訴訟を知ったZも「XとYの間の訴訟で事故の『偶発性』が認められてしまえば、AがZに対して保険金請求をしてきたときも『偶発性』が認められやすくなるんじゃね?やばくね?」と思い、XY間の訴訟に補助参加したい!と主張したのです。
このZによる補助参加の可否が問題になりました。
これがまさに、❷「先決的・択一的でない形で事実上の影響を及ぼす」場合にあたります。
保険契約においては「偶発性」の認められる事故といえなければ保険の対象外とされるわけですが、「偶発性」の定義は、各保険会社によって異なるため、Y保険との関係で「偶発性」が認められたとしても、Z保険との関係では「偶発性」が認められない、ということも理論的にはあり得るのです。
このように、XY間の訴訟の結果(この場合は「偶発性が認められる」という判決理由中の判断)によって、Zの法的利益が論理必然的に決まるという関係にはなく、XYの訴訟の結果は、先決的択一的でない形でZの法的利益に事実上の影響を及ぼすに過ぎないということになります。
さて、❶「先決的・択一的な形で事実上の影響を及ぼす」場合、❷「先決的・択一的でない形で事実上の影響を及ぼす」場合の意味合いについて理解できたと思います。
次はこの両者について、補助参加の利益が認められるか(どちらが認められやすいのか)というお話をしますが、結論からいうと、「❶は補助参加の利益が認められ」、「❷は補助参加の利益が認められないこと」がある、という感じになります。
ここで、先程の補助参加のメリット・デメリットの話に戻るのですが、「補助参加の利益の有無は、この「補助参加のデメリット(訴訟遅延・複雑化)」と「補助参加のメリット(資料の豊富化)」を衡量して決定する」といいましたよね。この話がここで生きてきます。
❶について、補助参加のメリットとデメリットを衡量しますと、以下のようになります。
すなわち、❶は「先決的・択一的な形で事実上の影響を及ぼす」場合ですから、「先決的・択一的関係にあるが故に、参加申出先の訴訟で申出人の利害にかかわる事項が既に織り込まれており、補助参加を許しても上記デメリットは小さい」といえます(許容性)。
また、「前訴で出された判断が、後訴で証拠として提出され第三者に不利に作用する場合が想定されることに照らすと、補助参加を認める必要性も高い」といえます(必要性)。
先ほど具体例としてあげました、主債務者に対する主債務履行請求訴訟に保証人が参加する場合、で考えましょう。
保証人としては、補助参加をして「主債務の存在」を争いたわけです。ところで、「主債務の存在」は、当事者間の主債務履行請求訴訟で当然に争われている事項であって、保証人が参加してきたとしても争点が拡散するようなことはありません。保証人が参加しようと、しまいと、どっちにしろ「主債務の存在」は争いざるを得ないのです。
このように、❶の場面では、「主債務の存在」という保証人の利害にに関わる事項が、当事者間の訴訟で織り込み済みといえますから、「訴訟遅延・複雑化」というデメリットは小さいことになります。
逆に、債権者と主債務者の間の訴訟(参加先の訴訟)で「主債務の存在」が確定すれば、判決効の拡張は受けないまでも、その後に、債権者が保証人に対して保証債務履行請求訴訟を提起して
「前の債権者と保証人との間の訴訟で、主債務は存在する!って前提の判決もらったんすよねぇ。既判力は及ばないけどさぁ、こういう判決もらった事実は重視してもらえますよね?」
と裁判長に告げ口すれば、保証人の旗色はかなり悪くなります。
そもそも、同じ裁判体での話なら、前に「主債務は存在する」という判決が出ていることは顕著な事実かもしれません。
いずれにせよ、判決効は拡張されないまでも、債権者と主債務者との間の訴訟の争点である「主債務の存在」についての判断の帰趨は、後に提起されるであろう保証債務履行請求訴訟に怯える保証人にとっては死活問題となるのです。
このように、❶の場合には、前訴で出された判断が、後訴で証拠として提出されれば、第三者(参加人)にダイレクトに、クリティカルに、フェータルなダメージを与えますから、補助参加をさせる必要性は高いといえるのです。
そして、この第三者に補助参加をさせれば、血眼で真剣な訴訟行為をするでしょうから、訴訟資料の豊富化という補助参加のメリットを存分に発揮できるのです。
対して、❷について補助参加のメリットとデメリットを衡量しますと、その逆の結論となります。
すなわち、先決的・択一的関係にないので、参加申出先の訴訟で申出人の利害にかかわる事項が既に織り込まれているともいえないですし(許容性が小さい)、先決的・択一的関係にない分、申出先の訴訟の結果が申出人の利害に与える影響は小さく、申出人に権利主張の機会を与える要請も小さい(必要性が低い)といえます。
もっとも、これは一般論ですので、❷についても補助参加の利益を認めるべき場面はあります。
試験では、これを論証するのです。
すなわち、「❷の場面では、ベクトルとしては、補助参加の利益が認められにくい方向性では考えるが、個別事案ごとに、メリットとデメリットの衡量を検討する」ということです。
「審理遅延や複雑化というデメリットと、資料の豊富化による審理の充実というメリットを衡量して、審理の著しい遅延や複雑化がなく、訴訟資料の豊富化による審理の充実が期待できる場合には、❷の場面でも、補助参加を許す余地を認めることができる」と考えるのです。
具体的な考慮要素としては、参加申出がなされた時期、異議を提出したのが相手方か被参加人か、参加申出人の数は何人か、補助参加がなされることによって被参加人側の訴訟資料・証拠資料が充実するか否か、逆に補助参加によって訴訟が手続進行面でも資料面でも複雑になりすぎないかどうか、等を検討することとなります(←この考慮要素は百選の解説に書いてあった!気がします!(笑))
第5 「訴訟の結果につき」
1 「訴訟物限定説」と「訴訟物非限定説」
順番は前後しましたが、次は、「訴訟の結果につき」の要素について説明します。
まず、42条にいう「訴訟の結果」が何を指すか、という点について、「訴訟物限定説」と「訴訟物非限定説」が存在していることはご存知と思います。
訴訟物限定説とは、「(42条にいう)『訴訟の結果』は、訴訟物についての判断に限られる」という学説です。
対して、訴訟物非限定説とは、「(42条にいう)『訴訟の結果』には、判決理由中の判断も含まれる」という学説です。
2 本論点の意味
さて、この2つの学説が存在していることは、受験生ならば誰でも知っていなければならない話なのですが、ここで(念のために)説明しておきたいのは、「『訴訟の結果』は、「訴訟物についての判断に限られる」ということの意味、「『訴訟の結果』には、判決理由中の判断も含まれる」ということの意味です。
何が言いたいかというと、「『訴訟の結果』は、訴訟物についての判断に限られる」というのは、「訴訟物についての判断の既判力が参加人に拡張される場合に限られる」ということとは全然意味が違う、ということです。
以下の事例をみてください。
XはY・Zに対して共同不法行為に基づく損害賠償請求を提起したところ、Zに対する請求のみ認容され、確定した。Zは、Yの勝訴が確定するとZのYに対する求償請求の後訴が困難になると考え、Yにも過失があり損害賠償義務を免れないとして、被害者Xのために補助参加を申し立てると同時に、XとYとの判決について控訴を提起した。このような場合、Zに補助参加は認められるか。
上の事例は、訴訟物限定説と訴訟物非限定説の違いを説明するための典型的な事例であることはご存知と思います。
訴訟物限定説に立つならば、Xの請求を棄却する判決が確定したとしても、その判決主文の訴訟物についての判断(=XのYに対する損害賠償請求権の有無)によっては、後のZのYに対する求償請求に影響はありません。
対して、訴訟物非限定説に立つならば、Xの請求を棄却する判決の理由中の判断において、「Yの過失がなかったこと」が示されることになり、この判決理由中の判断が、後のZのYに対する求償請求に影響を与える、と考えられるのです。
そして、訴訟物限定説に立った場合の説明でも、「判決主文の既判力によって、後のZのYに対する求償請求に影響がない」ということを言っているのではなく、「判決主文の内容によって、後のZのYに対する求償請求に影響がない」ということを言っているのです。
上の事例では、XのYに対する請求の既判力は、当事者が違うのですから、Zに対して拡張されることはありません。これは当然のことです。
あくまで、訴訟物限定説は、「判決主文の『内容』(✕ 既判力)によって、法律上・事実上の影響を受ける場合にのみ、補助参加を認める」という立場で、訴訟物非限定説は「判決理由中の『内容』によって、法律上・事実上の影響を受ける場合をも含んで、補助参加を認める」という立場ということになります。
非常に当たり前のことを言っているのですが、上位ローの受験生の中で意外と勘違いしている人が多い印象ですので、是非注意して下さい。
3 訴訟物限定説と訴訟物非限定説のどちらを採るべきか
42条の「訴訟の結果」について、この2つの学説が対立しているわけですが、判例がどちらの説を採用しているかは確立していない、と言われたりします。
しかし、最決平13.2.22は、(過労死を理由とする)労災補償保険法による保険給付の不支給決定がされ当該処分の取消しが求められた訴訟において、事業主が被告労働基準監督署長側に補助参加を申し出た事案で、参加の理由とされた、過労死の業務起因性が肯定されると事業主が原告から労働基準法にもとづく災害補償(または安全配慮義務違反による損害賠償)を請求された際に不利な判断がされる可能性がある、ということをもって、補助参加の利益を基礎付けられないとしました。
また、最判昭51.3.30(百選(第三版)[A39])も、「第5 2」でさきほどあげた典型例と同様の事例につき、
「右の場合においては、XとYらの間の本件訴訟の結果いかんによってZのXに対する損害賠償責任に消長をきたすものではないが、本件訴訟においてYらのXに対する損害賠償責任が認められれば、ZはXに対しYらと各自損害を賠償すれば足りることとなり、みずから損害を賠償したときはYらに対し求償し得ることになるのであるから、Zは、本件訴訟において、Xの敗訴を防ぎ、YらのXに対する損害賠償責任が認められる結果を得ることに利益を有するということができ、そのために自己に対する第一審判決について控訴しないときは第一審において相手方であったXに補助参加することも許されると解するのが、相当である。」
として、訴訟物非限定説を採用しています。
このように、判例はどちらかというと、訴訟物非限定説を採っていると解釈するのが妥当であるように思われます。
どちらの説をとっても決して間違いではないのですが、補助参加の間口を広げるという意味では、訴訟物非限定説が妥当なのかなぁ、と個人的には感じています。
参考までに、訴訟物非限定説の論証をあげておきます。
【論証】
まず、訴訟物に関する主文の判断で参加人の地位が論理的に決定される場合が、「訴訟の結果」に含まれることに争いはない。問題は、判決理由中の判断もこれに含まれるかである。
この点、訴訟物に関する主文の判断で参加人の地位が論理的に決定される場合に限って、補助参加の利益が認められるとする見解がある(訴訟物限定説)。
しかし、主文中の判断に限るとすると、補助参加の途を限定することになり、狭きに失する。
そもそも、判決理由中の判断についても参加的効力が生じるので、参加の利益を主文の判断についての利害に限定するのは、論理的でない。
また、補助参加の制度目的を重視して、参加の間口を広げるべきである。
そこで、判決主文に限らず、第三者の地位が事実上影響を受ける判決理由中の判断も含むと解する。
第6 まとめ
以上です。なかなか重たい議論ではあるのですが、とにかく、補助参加の利益の要件を要素ごとに分断して、要素一つずつの意味合いを丁寧に考えてやるのがポイントです。
Twitterやってます。
記事にしてほしい内容についてリクエストがありましたら、本ブログコメント欄かTwitterにリプしてもらえると励みになります。