第17回 当事者適格の有無の判断基準
第1 導入
今回は、「当事者適格の有無の判断基準」について説明していきたいと思います。
当事者適格については、主に「任意的訴訟担当」がテーマとして扱われることが多いのですが、今回は「任意的訴訟担当」の話ではなく、もっと総論的に「給付訴訟の当事者適格は誰に認められるのか」という点について説明しようと思っています。
給付訴訟の当事者適格は、原告適格であれば、「権利者と主張する者」に当事者適格が認められるし、被告適格であれば、「義務者と主張される者」に当事者適格が認められる、と理解している人が多いでしょう。
その理解が正解です。
しかし、たとえば、「自分が権利者だ!」と主張して給付訴訟を提起した当事者が、その権利を第三者に処分したことを自白した場合、その当事者の「原告適格者たる地位」は失われないのでしょうか。
実はこの点に関して、以前答案を採点していた際に以下のような設問がありました。
事案としては
XはYに対して、所有権に基づく甲建物の明渡請求訴訟を提起した。訴訟係属中に、XがZに対して、甲建物の所有権を処分したことを自白した。
というものです。
では、このようなケースで
Xは、甲建物をZに売却したことにより、本案判決を求める資格を失い、訴えは却下されるのが原則である。
と回答することは正しいでしょうか。
正解としては、「誤っている」ということになります。
6割ほどの受験生が正解にたどり着けるのではないかと思います。
もっとも、どうしてこの回答が「誤っている」のでしょうか。
その根源的な部分に説得的な説明を用意している人は実は多くないのではないでしょうか。
今回は、その部分を重点的に説明していこうと思います。
第2 確認の訴え、形成の訴えの当事者適格者
給付の訴えの前に、確認の訴え、形成の訴えの当事者適格者の選定方法についてお話します。
この部分は、それなりの基本書や予備校本にも記載されている内容ですので、必ずおさえるようにしてください。
1 確認の訴え
(1) 原告適格
まず、原告適格についてですが、「確認の利益を有する者が原告適格を有する」という関係を押さえておいて下さい。
確認の訴えといえば、「確認の利益を有する者」が大きなテーマとして論じられます。
そして、「確認の訴えの原告適格」ということがあまり問題にならないのは、確認の利益と当事者適格の問題が表裏の関係にあり、【確認の利益を有する者=原告適格者】という関係にあるからです。
そもそも、当事者適格は、「誰を当事者として訴訟追行させることが紛争解決にとって有意義で、紛争と無用に長期化させることなく解決するために適切か」という観点から定まりますが、この着眼点は、①確認対象の適否、②即時確定の利益の存否、③方法選択の適否の3要素から決定される「確認の利益を有する者」の選定の論点の着眼点と共通します。
すなわち、「確認の利益を有する者」の選定が終わった段階で、その選定の際の着眼点を共通にする「原告適格者」の選定も終了しているといえるのです。
この意味で、「確認の利益を有する者が、確認の訴えの原告適格者である」ということになります。
(2) 被告適格
次に、被告適格についてですが、ここでは「確認を必要ならしめている者」が確認訴訟の被告適格者ということになります。
確認の訴えが有効に存在し続ける前提として、確認の利益のうちの「即時確定の利益」が必要ですが、「即時確定の利益」が認められるためには、誰かしらが原告の主張する権利・法的地位を危うい立場においている必要があります。
その者が被告適格者ということになります。これが原則です。
なお、せっかくですので、例外についても確認しましょう。
例外としては、「対世効ある確認訴訟」の場合をあげることができます。
有名論点として、「法人の代表者の地位をめぐる紛争においては、誰を当事者にすべきか」という論点があることはご存知でしょう。銀閣寺事件(最判昭44.7.10)に代表されます。
たとえば、以下のような事例です。
旧理事であるXは、自分がなお「理事」としての地位を有している(新理事の地位を否定するのではなく、自分が理事の地位についていることの確認)ことの確認を求めたい。このとき、A法人、Y新理事のいずれを被告とすべきか。
この場合、「確認を必要ならしめている者」、すなわち、「法人の代表者たる地位を争っている者」は、Y新理事といえそうですから、Y新理事を第一次的な被告適格者とすべきようにも思えます。
しかし、判例は、法人を被告とすれば、法人との間で組織法上の地位にあるか否かが確定され、何人もこれを認めるべきこととなるから、対世効のある判決が得られ、紛争解決の実効性が高まる、として、法人を第一次的な被告適格者としました。
このように、ある者を被告とすれば、「対世効ある確認訴訟」を形作ることができる場合には、そちらの方が紛争解決の実効性が高くなるので、その場合には、その者を被告適格者とする、ということになります。
なお、銀閣寺事件の例とは異なりますが、「原告がY理事が法人の理事の立場にないことの確認を求める」といった確認訴訟を提起する場合はどうでしょう。
まず、法人を当事者とすれば「対世効ある確認訴訟」を形作ることができますから、法人を被告適格者とすることは同様です。
注意すべきはここからで、銀閣寺事件の場合には、原告が「俺が代表者だ!」と主張するパターンでしたが、今回は原告が「お前は代表者じゃない!」と主張するパターンです。
つまり、今回のケースでは、原告としては「Y理事と法人との間の委任関係(他人間の委任関係)」を否定することが訴訟物の内容となっているのです。
この場合には、Y理事の手続保障を充足させるべきですから、Y理事と法人をどちらも被告適格者とすると考えるのが無難でしょう(固有必要的共同訴訟となります)。
2 形成の訴え
次に、形成の訴えですが、これはそれほど難しくありません。
すなわち、形成の訴えの被告適格者は、通常は明文で規定されており、その者を被告適格者とすればよいのです。
たとえば、会社関係訴訟が顕著ですが、会社関係訴訟の被告適格者については、会社法834条が規定していますよね。
このように、とやかく考えず、法律の明文に従えばいいのです。
なお、以前は、役員解任の訴え(会社法854条)に関連して、役員にも被告適格を認めるべきでないか、という議論がなされておりました。
ここの着眼点は、さきほど説明した話と同じです。役員と会社との委任関係を否定するのですから、役員にも被告適格を認めるべき、という議論です。
この点について、最判平10.3.27は、取締役解任の訴えの被告は会社と取締役であり、固有必要的共同訴訟であるとして、役員にも当事者適格を認めています。
そして、この判例を受け、後に会社法855条が新設され、役員解任の訴えについては、会社と役員のどちらをも被告適格者とすることが規定され、解決を見ました。
第3 給付の訴えの当事者適格者
さて、ここからが本題です。便宜上、原告適格についてまずは説明しようと思います。
もう一度確認ですが、給付訴訟の当事者適格は、原告適格であれば「権利者と主張する者」に、被告適格であれば「義務者と主張される者」に、それぞれ当事者適格が認められるとされており、これは正しい理解です。
では、「第1 導入」でお話したように、
XはYに対して、所有権に基づく甲建物の明渡請求訴訟を提起した。訴訟係属中に、XがZに対して、甲建物の所有権を処分したことを自白した。
というケースで、
Xは、甲建物をZに売却したことにより、本案判決を求める資格を失い、訴えは却下されるのが原則である。
と回答することは誤りなのでしょうか。
(1) 判例の見解
この点に関して、皆さんは最判平23.2.15(重判H23年2)という判例をご存知でしょうか。
この判例の事案は以下のようなものでした。
「権利能力なき社団であるマンションの管理組合が、規約で定められた原状回復義務に基づく工作物の撤去、規約所定の違約金の支払い又はこれと同額の不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに、看板等の設定に係る共用部分の使用料相当損害金の支払い等を求めた」
この判例においては、権利能力なき社団であるマンション管理組合に原告適格が認められるのかが問題となりました。
なぜならば、当該マンション管理組合は権利能力なき社団なのであって、権利帰属主体たり得ないからです。
いくら「自分が権利者である!」と主張していたとしても、その者が権利帰属主体たり得ないならば、当事者適格者とするべきではないのではないか、という問題が生じるのです。
しかし、最判平23.2.15は、訴訟物たる給付請求権を自ら持つと主張する者に原告適格が認められるとして、権利能力なき社団であるマンション管理組合の原告適格を認めました。
問題はその根拠ということになります。
そもそも、「権利者と主張する者」に原告適格が認められるとされる理由はなんでしょうか。
この点、当事者適格という訴訟要件は、「効率的な訴訟運営や紛争解決の実効性を確保する」ためのものです。
「効率的な訴訟運営や紛争解決の実効性を確保する」ために、最も適切な当事者を選定するための要件が当事者適格ということになります。
そして、自らを「権利者と主張する者」は、自らの権利を基礎づけるために、充実した訴訟追行をすること請け合いであり、その者を当事者として判決を下せば、現実に存在している紛争を解決することができます。
したがって、「権利者と主張する者」を原告とすることが、効率的な訴訟運営や紛争解決の実効性を確保する上で最も適切であると考えられるのです。
その者が権利能力を有さず、権利帰属主体となりえないという結論になるのであれば、当事者適格云々とは別に、本案の問題として請求棄却とすればよいのです。
このことは、「権利者と主張する者」が給付の訴えを提起した後に、その権利を第三者に処分したことを自白した場合も同様であり、このようなケースでも、当事者適格を失ったものとして却下とするのではなく、単純に請求棄却とする取扱いがなされます。
「実体法上の権利帰属主体ではない場合には、当事者適格は維持したまま、請求を棄却する」という取扱いには、価値判断的な理由もありまして、却下判決を確定させるよりも、棄却判決を確定させた方が、既判力が生じる範囲が広く、厚みのある判決をすることができる、という事情もあります。
このように、判例は、権利義務の帰属主体となり得ない場合であっても、形式的に権利者であると主張する者が原告適格者である、という定式を貫いています。
また、被告適格についての判例の態度も同様で、最判昭61.7.10は、「給付の訴えにおいては、その訴えを提起する者が給付義務者であると主張している者に被告適格があり、その者が当該給付義務を負担するかどうかは、本案請求の当否に関わる事柄である」と明確に述べています。
論証の具体例を示すと以下のようになるでしょう。
この点、原告の主張自体から、原告が権利者となり得ない(ないし原告が権利を処分してしまった)、もしくは、被告が義務者となり得ないことが明らかである場合であってもこれを訴訟要件の当事者適格の問題だとしても、本案審理の問題だとしても、実際の審理内容に差が生じるわけではない。
だとすれば、訴え却下判決よりも、判決の効力として厚みをもつ本案判決をする方が望ましい。
よって、権利者であると主張する者に原告適格があり、義務者と主張されていさえすれば被告適格が認められると考える。
(2) 当事者適格の訴訟要件上の位置づけ
以上が受験的に知っていなければならない話です。
ここからは補足なのですが、少し理解を深めるお話をします。
皆さんは、「訴訟要件」の定義を覚えているでしょうか。
僕が覚えた定義でいうと、訴訟要件とは、「本案審理を続行して、本案判決を求める資格」ということになります。
ここで、 突如として刑事訴訟法のお話をします(笑)
刑事訴訟法には、民訴における「訴訟要件」に対応するものとして、「訴訟条件」という言葉があることはご存知でしょう。
ここで、刑訴の「訴訟条件」とは、物の本によると「訴訟を適法に成立させ、維持し、実体判決を下すための条件」と定義されています。
なぜここで突如として「訴訟条件」の話をしたかというと、刑訴の「訴訟条件」と民訴の「訴訟要件」を比較することが、意外と有意義だからです。
皆さんは、刑訴の「訴訟条件」について、以下のように問われたらどう答えるでしょうか。
検察官が、告訴もとらずに被疑者を強姦罪で起訴した。検察官の熱心な説得の結果、結審までの間に被害者に告訴してもらうことができた。この場合、裁判所としては有罪判決を言い渡すことができるか。
これは感覚的にダメでしょう。親告罪なのに告訴なく起訴された事件について実体審理をすすめれば、被害者の意思に反して強姦の模様が審理され、せっかく親告罪にした意義がそこなわれるからです。
つまり、告訴がないと判明した時点で、実体審理を打ち切るのが妥当なのです。
さて、ここで「告訴」という「訴訟条件」の位置づけを考えてほしいのですが、ここの議論では「告訴」がなければ、「裁判所は実体審理にも入れない」ということになりますよね。
つまり、「告訴」という「訴訟条件」は「審理開始の要件」として機能しているのです。
このように、刑訴の訴訟条件を審判の要件であるだけでなく、公訴(審理開始)の適法要件でもあると考える見解(通説)は、「実体審判条件説」と呼ばれています。
対して、民訴における訴訟要件は、前述のように「本案審理を続行して、本案判決を求める資格」と解されており、「訴訟を成立(開始)するための要件ではなく、あくまで本案判決をするための要件である」と解されています。
すなわち、民訴における訴訟要件は、本案判決をする時までに備わっていればよく、訴訟要件の追完が可能なのです。
訴訟要件の審理と本案の審理は同時並行してなされる、と言われますが、これも訴訟要件が審理開始のための要件ではないからこそいえることです(訴訟要件が刑訴の訴訟条件のように、訴訟開始のための要件なのだとしたら、本案の審理の前に必ず訴訟要件の審理が先行しなくてはなりません)。
このように、民訴の訴訟要件は、刑訴の訴訟条件と異なり、訴訟開始のための要件ではなく、本案判決をするための要件ということになります。
さて、こう考えると少しおかしなことになると思いませんか?
というのも、前述したように、一度原告が「自分が権利者である!」と主張して給付の訴えを提起すれば、訴訟の途中で「権利は第三者に処分したよ!」と自白したとしても、当事者適格は失われず、本案判決たる請求棄却判決をすることになりましたね。
ということは、当事者適格の有無は、本案判決の時点(正確には口頭弁論終結時の時点)でも実際には審理されていないことになります(「権利は第三者に処分したよ!」と主張しても、それはもう請求棄却の理由にしかならなわけですから。)。
重ねて、当事者適格はあくまで民訴における「訴訟要件」でありますから、前述したように審判開始の要件ではありません。つまり、審理の開始に先立って当事者適格の有無が審理される関係にはないのです。
となると、当事者適格の審理をして、「当事者適格を欠くものとして訴えを却下」するというフェーズが民事訴訟の中に存在しなくなるのではないか、という疑問が生じます。
※ 訴訟担当の場面では、そもそも、訴訟担当者は「自分が権利者である」と主張して訴えを提起してきてはいないので、「訴訟担当の基礎を欠く」と判決基準時に判断され、当事者適格欠缺を理由として訴え却下とされる場面が想定されます。
そりゃそうです。
仮にどこの馬の骨かわからない人が訴訟担当者として訴えを提起してたとします。
そして、裁判所が「訴訟担当の基礎を欠くから当事者適格者でないことはたしかなんだけど、却下ってするよりも棄却にした方が厚みのある判決にできるよね」という理由で請求棄却としてしまえば、その棄却判決の判決効が権利者に拡張されることになってしまいます(115条1項2号)。
これは避けなくてはなりません。
実は、前述した、
原告の主張自体から、原告が権利者となり得ない、若しくは、被告が義務者となり得ないことが明らかである場合(ex.権利能力なき社団である場合)、それでも、原告が権利者と主張する者に原告適格があり、義務者と主張する者に被告適格があるか。
の論点における反対説(原告の主張自体から、原告が権利者となりえないことが明らかな場合には、原告が権利者と主張する者に原告適格は認められないとする説)の論者は、理由付けとして、
主張された権利関係において請求権者または義務者たりえない者であっても当事者適格を有すると解するのであれば、給付訴訟においては、第三者の訴訟担当の局面を別とすれば、一般的には当事者適格を訴訟要件として問題とする意味がなくなってしまう。
というように、上述した疑問と同じことを述べています。
このように深入りすれば、通説·判例の見解に対しても反論が可能であることを、余裕がある方はは覚えておくといいと思います。
第4 まとめ
今回は、当事者適格の総論的な部分を扱いました。
当事者適格は、後日書こうと思っている「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」の論点と大いに関わる部分ですし、当事者適格の総論的な部分を理解していると、当事者適格が関係する論点の論証に非常に厚みがでます。
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