TIPPP’s blog

弁護士1年目。民訴オタクによる受験生のためのブログです。予備校では教わらないけど、知っていれば司法試験に役立つ知識を伝授します。https://twitter.com/TIPPPLawyer

第21回 附帯控訴

 

第1 はじめに

 二回試験が無事に(?)終わり、1ヶ月弱のモラトリアムが戻ってきました。

 無事に合格できていれば、長い長い「受験生」としてのカルマから解放されます(僕は今までに何度「受験」してきたのでしょう…)

 

 ということで、久しぶりの更新です!

 

 久しぶりの更新!なのですが、今回選んだテーマはなんと「附帯控訴」です。

 

 「受験生のためのブログ!」と銘打っておきながら、どうしてそんなマイナーなテーマを選ぶのか、集合修習の寮生活でついに狂ったか…と思われるかもしれません。

 

 しかし、実はこの「附帯控訴」というテーマは知っていて損はありません。

 

 たしかに、司法試験・予備試験やロースクール入試の問題でダイレクトに「附帯控訴」が聞かれることは多くないとは思うのですが、皆さんも「附帯控訴」という概念を基本書の中でしょっちゅう目にしてきたのではないでしょうか。

 

 その度に、「附帯控訴…なんとなく知ってるけど…」という感じで無碍に扱うことも多かったものと思います。

 

 しかし、民事訴訟法は、【論理と論理を組み合わせるパズルゲーム】みたいなものです。

 

 つまり、各制度や概念の理解をおそろかにしてしまうと、パズルのピースが足りなくなって一貫した論理構成が不可能となってしまいます。

 

 ですので、今回は基本書にひょこっと登場することの多い「附帯控訴」について、一度概念を整理しておこうと思います。

 

 

第2 「附帯控訴」の意義及びその趣旨

1 意義

 さて、早速ですが「附帯控訴」とはそもそもどのような制度でしょうか。

 

 条文を確認してみましょう。

 

 附帯控訴について規定している条文は、293条1項です。

 

 293条1項「被控訴人は、控訴権が消滅した後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、附帯控訴をすることができる。」

 

 …なんともパッとしませんね。

 

 「附帯控訴をすることができる。」って、だから附帯控訴ってなんやねん、ってなります。

 

 このように、附帯控訴は、民訴法293条に規定されていますが、定義らしい定義は書いてありません。

 

 条文があまり参考にならない以上、条文を少し離れて制度理解を進める必要があります。

 

 皆さんは、附帯控訴に対して「相手が控訴してきたことに対する仕返しに、こっちも控訴っぽいことをしておく!」という認識を有しているかもしれません。

 

 結論から言うとその認識は大変正しいです。

 

 では、「相手が控訴してきた」場合に、なんのために「仕返しとしての控訴っぽいこと」をしておく必要があるのでしょうか。

 

 この点は、勉強のある程度進んでいる受験生ならば答えられるものと思います。

 

 すなわち、「不利益変更禁止を破る」ためです。

 

 この「不利益変更禁止を破るため」ということの意味を具体例をもとに考えてみましょう。

 

 XはYに対して、1000万円の貸金返還請求訴訟を提起していたが、第一審では700万円一部認容判決(=300万円部分について一部棄却判決)が出された。

 これに対して、Yは全部棄却を求めて控訴した。

 

 以上のケースで、控訴審の審理範囲はどの範囲となるでしょうか。もっというと、審理範囲は「700万円を認容した部分」に限られるのか、「300万円の一部棄却部分」についてまで含まれるのか、という問題です。

 

 正解は前者です。なぜならば、控訴審控訴人の主張する不服の範囲でしか審理をすることができないところ(=不利益変更禁止)、本件では、控訴人であるXは「700万円を認容した部分」についてしか不服を主張していないからです。

 

 しかし、XがYの控訴の仕返しとして「附帯控訴」をしておけば、この「300万円の一部棄却部分」についても審理してもらえることになるのです。

 

 仮に附帯控訴をしなければ、「300万円の一部棄却部分」は審理されないので、Xとしてはその部分を甘受せざるを得ず、下手もしたら「700万円の認容部分」も減額されるおそれまであります。

 

 対して、附帯控訴をしておけば、「300万円の一部棄却部分」も審理されるので、Xとしてはその部分を甘受せずに「300万円分を棄却するなんておかしい!全部認容しろ!」と争うことができます。

 

 これが、「附帯控訴は不利益変更禁止を破るものである」という意味です。

 

 僕が使っていた予備校の教科書には、附帯控訴の定義について、「不利益変更禁止を破る」という要素を反映して、以下のように記載されていました。

 

 附帯控訴とは、「被控訴人が控訴人の控訴を契機に、原判決を自己のためにも有利に取り消し、又は変更するよう主張して、その当否の審判を求める攻撃的申立て」である。

 

 なお、好き好きですが、僕は以下の定義の方がしっくりきます。

 

 附帯控訴とは、「控訴人の不服の主張によって限定されている審判の範囲を拡張し有利に原判決の変更を求める被控訴人による不服申立て」である。

 

 両者、言っていることは同じなので、しっくりくる方をメモってもらえるといいと思います。

 

 

2 趣旨

 ところで、以上の具体例を考えた時、以下のような疑問を抱いた方もいるのではないでしょうか。

 

 もう一度確認ですが、以上の具体例は、

XがYに1000万円の給付請求の訴えを起こしたら700万円についてだけ一部認容判決がでた

 というものでした。

 

 そして、この判決に対して、Yが控訴してきたわけですが、Xとしては附帯控訴をしておかないと、不利益変更禁止が働き「300万円の一部棄却部分」をひっくり返すことができないと説明しました。

 

 …しかし、鋭い方ならば「それって別に附帯控訴じゃなくて、普通にXも控訴すればいい話じゃね?」と思うのではないでしょうか。

 

 たしかにそのとおりなんです。

 

 1000万円の請求が700万円の限度で一部認容されたという場合、300万円の限度では「一部棄却判決」がだされたのであり、この部分につきXは「敗訴」しています。

 

 つまり、Yだけでなく、Xにも控訴の利益があるのであり、Xは附帯控訴を使わなくても、普通に「控訴」ができるのです。

 

 そして、YとXが二人とも控訴をすれば、不利益変更禁止の問題は働かず、「300万円の一部棄却部分」をひっくり返すことは可能となります。

 

 では、どうしてXに控訴させれば以上の問題は解決できるというのに、法は「附帯控訴」という制度をわざわざ作ったのでしょうか。

 

 ここからが今回の記事で伝えたいポイントの1つ目です。

 

 以下では、「仮に附帯控訴という制度が存在しなかった場合」にどのような問題が生じるのかを確認してみましょう。

 

 以下は、附帯控訴の存在しない世界の話です。

 

 上の例で、Xは700万円の限度で一部認容判決を得たわけですが、Xとしては

 

「まぁ、一部認容ではあるけど、700万円も認めてもらえたんだから満足するか。」

 

と考えたとします。

 

 しかし、Xの頭には、すぐに以下のような懸念がよぎりました。

 

 「…いや、待てよ。俺は700万もらえれば満足だけど、これ、Yが控訴してきたら減額される可能性あるよな……あっちがやる気ならこっちとしても300万円敗訴部分について控訴しておくか…いやでも、Yも『全額認容にならなくて安心したぜ』みたいな雰囲気醸してたよな。そうなるとYが控訴してくるかもわからないか……え、でも控訴しとかないと怖いし…ってか控訴期間あと2週間かよ!その間に決めるの!?え、ギリギリまでYが控訴してくるか様子見てみる?…でもギリギリにYが控訴してきたら、こっちからの控訴間に合わないよ!どうするの!」

 

 このように、仮にXが第1審の一部認容判決に満足できたとしても、Yが控訴すれば、X自身からも判決の送達の日から2週間以内に控訴しておかないと、後々に300万円の一部敗訴部分について控訴審で審理できなくなる可能性があります。

 

 かといって、Yが控訴してくるかどうかはわかりません。

 

 このようなジレンマに苦しんだ結果、Xは安全策をとり「とりあえず控訴しておく」という選択を採ることになります。

 

 このような事態は訴訟資源の無駄遣いになりますよね。

 

 実は、附帯控訴は以上のような事態を避けるために設計されたものでもあるのです。

 

 つまり、「一方のみが控訴し、他方の控訴期間が徒過したとき、このときでもできる点に附帯控訴の意味がある」といえます。

 

 もう一度、293条1項の確認ですが、「被控訴人は、控訴権が消滅した後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、附帯控訴をすることができる。」とされていますよね。

 

 控訴は、285条によって判決の送達の日から2週間以内に行わなければなりません。

 

 これに対して、附帯控訴は「控訴権が消滅した後であっても、口頭弁論の終結に至るまで」することができるのです。

 

 これはまさに、上の事態を避けるための制度設計です。

 

 すなわち、Xが700万円の一部認容判決で満足した場合、Xとしては、Yが控訴なりしてくるまではとりあえずは何もしなければいいのです。

 そして、Yが控訴してきた場合には、(2週間の控訴期間など気にせず)落ち着いて附帯控訴をすればいいのです。

 

 このように、附帯控訴は、2週間の控訴期間に、相手方が控訴をしてくるかどうかに常に気を配り、または相手方の控訴に備えて(とりあえず)控訴しておくという事態を避けるために設けられたものであるといえます。

 

 「自分は第一審の一部認容判決に満足したから、もう控訴はしない」と決断した平和的な態度をとる当事者の予期に反して、相手方が2週間の控訴期間満了の直前に控訴してきた場合に、その平和的な態度を採っていた当事者を救済する制度ともいえます。

 

 附帯控訴があるおかげで、「相手方が控訴してくるかもしれないから、こっちも控訴しておかなくては」という疑心暗鬼から当事者が解放され、不必要な控訴を回避する効果があります。

 

 293条2項では、「附帯控訴は、控訴の取下げがあったとき、又は不適法として控訴の却下があったときは、その効力を失う。」と規定されていますよね。

 

 これは、上記の趣旨から、附帯控訴が相手方が控訴してきた場合に備えたセーフティネット的な役割を果たすものであり、相手方からの控訴がなくなったならば、附帯控訴も必要がなくなるということの顕れです。

 

 いかがでしょう。

 

 「附帯控訴は不利益変更禁止を破るものである」という位置づけで論じられることは多いですが、どちらかといえば、「附帯控訴は当事者を控訴の疑心暗鬼から解放するためのものである」という位置づけで論じる方が、附帯控訴の「趣旨」としては適切ではないでしょうか。

※ 「不利益変更禁止を破る」のが附帯控訴の「機能」であり、「疑心暗鬼からの解放」が附帯控訴の「趣旨」である、という説明が正確なのでは?と思っています。

 

 また、択一的な知識で、「通常の控訴控訴状を第一審裁判所に提出して行うのに対して(286条1項)、附帯控訴については、控訴状を控訴裁判所に提出して行う(293条3項但書)」というものがありますが、これも上記の趣旨から考えれば明らかです。

 

 附帯控訴はあくまで、相手方からの控訴に応じて、控訴審において落ち着いて行うものであり、附帯控訴控訴状の提出先も当然に控訴裁判所となります。

 

 

第3 附帯控訴による請求の拡張

 さて、ここで以下のような問題提起をしてみます。

 

 XはYに対して、1000万円の給付請求訴訟を提起したところ、第一審はXの請求全部認容判決となりました。

 

 しかし、Xは以下のように考えました。

 

 「本当は1000万円給付の請求の趣旨を1500万円に拡張したかったんだけど、1000万円の全部認容判決だされちゃった…これ、控訴なり附帯控訴なりして、控訴審で拡張できないかな?」

※ 「請求が一部であることの明示」はないことを前提にしてください。

 

 これが「附帯控訴による請求の拡張の可否」の議論です。

 

 まず、Xは全部勝訴判決を得ているので、控訴を提起することはできません。

 

 したがって、Xとしては、自ら控訴をして、控訴審で請求を拡張することはできません(控訴ができません)。

 

 また、Xとしては、Yが控訴してきたことに乗じて、(附帯控訴をせずに)控訴審の中で請求の拡張をすることもできません。

 

 これは不利益変更禁止に反するからです。

 

 そこで、このXを附帯控訴によって救済できないか、という議論が生じます。

 

 ところで、附帯控訴は、第2で見てきたような特質を持つものです。

 

 このように、附帯控訴が通常の控訴に比して異質なものであることから、「附帯控訴控訴なのか、そうでないのか」という議論がていされるようになりました。

 

 この問題は、特に、控訴の利益が利益がない場合でも附帯控訴ができるかという形で論ぜられています。

 

 「附帯控訴の法的性質をどのように解するか。」という「出た!講学上の理論!」みたいな論点がそれです。

 

 この点については、最判昭32.12.13が、全部勝訴判決を得た当事者による附帯控訴を認めたことにより、附帯控訴控訴の一種ではなく、控訴とは異なる特殊な攻撃防御方法であるという考え方が通説・判例の立場ということになりました。

 

 控訴の要件(不服の利益)に関する議論として、形式的不服説が通説ですが、形式的不服説の下では、全部勝訴判決を得た当事者による控訴は認められません。

 

 それにもかかわらず、最高裁は全部勝訴判決を得た当事者による附帯控訴を認めたのです。ということは、最高裁は、附帯控訴について「不服の利益」を必要としていないことを意味します。

 

 「不服の利益」を必要としない控訴なんてありえない。したがって、附帯控訴控訴の一種ではなく、「特殊の攻撃防御方法」である、という結論が導き出されました。

 

 そして、附帯控訴控訴の一種ではなく、「特殊の攻撃防御方法」であるという結論から、附帯控訴を考えるにあたっては、「不服の範囲による限定」を考える必要はなく(=不利益変更禁止を破る)、請求の拡張や反訴の提起が可能となるのです。

 

 このように、1000万円の全部認容判決を得たXは、Yの控訴に応じて、附帯控訴をすることで、控訴審において1500万円の請求の拡張が可能となります。

 

 何度もいいますが、Xとしては、仮にYからの控訴があろうと、附帯控訴をしておかないと、不利益変更禁止が働き、控訴審において請求の拡張をすることはできません。

 

 

第4 「控訴不可分の原則」と附帯控訴

 さて、今から説明する話が、受験的に「附帯控訴」を理解しておく有用性を最も見いだせるものです。

 

 「控訴不可分の原則」という話を聞いたことがあると思います。

 

 「訴えの客観的併合」の章の「予備的併合と控訴」という議論で出てくるあいつです。

 

 これは「予備的併合で、副位請求認容判決がだされ、被告のみが控訴した場合に、主位請求も移審するか」という論点であることはおわかりと思います。

 

 さて、この結論について「控訴不可分の原則があるから、副位請求のみならず、主位請求も控訴審に移審する」という論証を展開しますよね。

 

 今回説明したいのは、その論証の内実です。

 

 実は、この「控訴不可分の原則」と「附帯控訴」が密接に関連しているのです。

 

 すなわち、副位請求認容判決に対して、Yが控訴した場合、Xとしては、控訴審において副位請求が棄却となることに備えて「主位請求棄却」部分について附帯控訴をしたいと考えますよね。

 

 そして、その「主位請求棄却」部分について附帯控訴を可能とする前提として、「主位請求」についても控訴審に移審させておかなければならないのです(主位請求について移審の効果が生じず、主位請求が置いてけぼりにされていたら、主位請求について附帯控訴をすることはできなくなってしまいます)。

 

 このように、「控訴不可分の原則」は「附帯控訴」とアプリオリの原則ということになります。

 なお、注意ですが、「主位請求認容判決に対して、被告のみが控訴した」という場合に、「副位請求も移審するか」という議論においては、「控訴不可分の原則」は問題になりません。

 

 この場合には、「予備的併合では、主位請求と副位請求の間には相互に密接な関連性があり、主位請求が認容されない場合には副位請求について審理・判決することが予定されている」という「付従的一体性」を理由として、副位請求の移審の効果を肯定します。

 

 このように、「控訴不可分の原則」の原則を使うのは、「副位請求認容判決に対して被告が控訴した場合に、主位請求が移審するか」という場面ですので、注意してください。

 

 

第5 まとめ

 いかがでしょうか。

 

 「附帯控訴」という馴染みのない制度も、掘り下げてみるとすんなりと納得のいく制度であることに気づいていただけたと思います。

 

 特に、第4で述べた、「控訴不可分の原則」と附帯控訴との関係については、意識して論証すると「こいつわかってるな」感をだせると思います。

 

 

 

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