第22回 口頭弁論終結後の「承継人の範囲」と「固有の抗弁」
第1 導入
今回は、「口頭弁論終結後の承継人」(115条1項3号)のお話をします。
「口頭弁論終結後の承継人」の部分では、①「紛争主体たる地位の承継説」と「依存関係説」の対立を中心とした、「口頭弁論終結後の承継人の意義」の論点と、②「固有の抗弁」を有する第三者が「口頭弁論終結後の承継人」に当たるのかという論点の2つがありますが、今回取り扱うのは後者(②)の問題です。
※①の問題も非常に重要な問題ですので、次回以降に扱いたいと思います。
さて、同論点には、「実質説」と「形式説」の対立があるわけですが(基本的な論点なのでこれを知らなかった人はしっかり勉強を!)、結局どちらの説を採って論証を展開するべきなのか、皆さんは決断できているでしょうか。
予備校本等を見ていると、形式説での論証が展開されているのに、「でも判例は実質説!理由は…まぁ空気読んでね」みたいな、なんとも歯切れの悪い記述がなされていることも多いように思います。
今回は、両説の対立がどういう部分にあるのか、という説明をしたいと思います。
なお、今回の話は結構ヘビーです(笑)
他の記事の方が内容的に理解しやすいと思うので、自信のない方は他の記事から読むといいと思います。
第2 「実質説」と「形式説」の確認
1 設例の確認
「固有の抗弁を有する第三者が『口頭弁論終結後の承継人』に当たり得るか」というのが、今回の論点の問題提起なのですが、具体的にどういった事例で問題になるのか確認しておきましょう。
XはYから甲土地の譲渡を受けました(Xは移転登記未了)。それなのに、YはXに土地を明け渡してくれません。
そこで、XはYに対して土地明渡請求訴訟(第1訴訟)を提起し、Xの勝訴判決が確定しました。ところが、Yは第1訴訟の口頭弁論終結後にZに対して甲土地を譲渡してしまったのです。
そこで、XはZに対して甲土地の明渡請求訴訟(第2訴訟)を提起しました。
しかし、ZはXよりも先に甲土地の移転登記を備えていました。
この場合、Zは「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」をXに対して主張できるわけですが、そもそも、かかる「固有の抗弁」を有するZは、「口頭弁論終結後の承継人」として既判力の拡張を受けるのでしょうか。
※ Zは背信的悪意者にあたらないことを前提にしてください。
これが今回の論点の問題設定です。
本論点との関係では、XとYが虚偽表示をしていて、第三者であるZは94条2項の「第三者」の抗弁を有しているという設問が出されることが多いですが、今回は二重譲渡事例にしてみました(話は同じです)。
なお、XがYに対して甲土地の所有権を主張して明渡請求をする際に、Xが登記を備える必要はないことは当然ですよね。Yは177条の「第三者」に当たらないからです。民法の基本中の基本なので注意してくださいね。
また、要件事実の勉強が未だの受験生のために説明しておきますが、「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」とは、177条の「第三者」が先に登記を備えたことで、他の譲受人に対して「先に登記備えたのはこっちなんだから、お前の(不完全な)所有権は喪失したぞ!」という主張です。
2 実質説と形式説
さて、上の設例において、Zは「口頭弁論終結後の承継人」にあたり、「YはXに対して甲土地を明け渡せ」という内容の第1訴訟の判決の既判力はZに対して及ぶのでしょうか。
これについて、実質説と形式説の対立があります。
Zは「口頭弁論終結後の承継人」にあたらず、第1訴訟の既判力はZには及ばないとするのが実質説で、Zが「口頭弁論終結後の承継人」にあたり、第1訴訟の既判力がZに及ぶ(。もっとも、Zは第2訴訟において自己固有の抗弁の提出を妨げられない)とするのが形式説です。
ここで注意してほしいのですが、実質説にせよ、形式説にせよ、対抗要件喪失による所有権喪失の抗弁というZの「固有の抗弁」が、第1訴訟の既判力によって遮断されてないという価値判断に争いがないことを意識しておいてください。
すなわち、実質説によれば、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁という「固有の抗弁」を有するYには、そもそも第1訴訟の(X勝訴の)判決の既判力が及びません。そのため、Xから第2訴訟を提起されたZとしては、その第2訴訟の中で、普通に所有権喪失の抗弁を提出して勝訴すればよいのです。
また、形式説によっても、「YはXに対して甲土地を明け渡せ」という内容の第1訴訟の判決の既判力はZに及びますが、固有の抗弁の提出は当然に妨げられないので、Zは第2訴訟の中で、「固有の抗弁」として所有権喪失の抗弁を提出して勝訴すればよいのです。
このように、実質説であろうと形式説であろうと、第2訴訟において、Zに対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の提出が許されており、ZがXに勝訴するという結論に差異はないのです。
したがって、両者の対立は、そのZの抗弁の提出を許す際の法律構成ということになります。
まとめると以下のようになります。
① 実質説の場合
第1訴訟の既判力は第2訴訟には及ばないので、当然にZは対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を提出できる。
② 形式説の場合
第1訴訟の既判力は第2訴訟に及ぶが、Zは「固有の抗弁」の提出を妨げられないので、Zは対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を提出できる。
第3 「実質説」と「形式説」のどちらが妥当か
1 形式説の弊害
さて、ここから少し重いです(笑)
しかし、既判力の(主観面での)拡張を理解する上で非常に重要な部分ですので、是非理解していただきたいと思います。
以下で説明することは難しいので、一読して理解できなくてもかまいません(僕自身、一読するだけで理解できるような文章を作成する力は持ち合わせていません)。
何度か読み返していただきたいと思います。
前提として、答案上で、実質説と形式説のいずれを採用するか、という点ですが、結論から言うと「実質説を採用すべきである」と僕は考えています。
既に「形式説で行くぞ!」と決断をしている人も多いかと思いますが、その方々は、以下の説明を読んだ上でもなお、形式説に分があると判断したならばその考えを貫いていただきたいと思います。
まず、形式説とは、第1訴訟の既判力を第2訴訟へ拡張したとしても、Zは「固有の抗弁」の提出を妨げられるものではない、という前提に立ちます。
形式説を採用する方は、その理由として、
「既判力の拡張は、第三者が前訴で確定された権利関係自体を争い得ないことを意味するにとどまり、固有の防御方法を提出することまで遮断するものではない。」
といった論証を用意しているのではないでしょうか。
しかし、ここで立ち止まって考えていただきたいのです。
「既判力の拡張は、第三者が前訴で確定された権利関係自体を争い得ないことを意味するにとどまり、」←これってどういう意味でしょうか。
今回の記事の設例に立ち返って考えてみましょう。
「前訴」とは、第1訴訟です。
すなわち、「前訴で確定された権利関係」とは、「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という関係です。
つまり、「既判力の拡張」は、この「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係をZが「争い得ないことを意味するにとどま」ると述べているのです。
しかし、そもそも、Zが第2訴訟において「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係を争う意味ってあるでしょうか。
Zとしては、第2訴訟において「XがZに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係を争いたいと考えているわけですよね。
その前提として、Zとして、「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係を争う意味はあるのか、という問いです。
おそらく、この意味はありません。
なぜなら、「XがZに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係に対して、「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係は、「先決関係にない」からです。
Zとしては、自己の主張の正当性を基礎づけるために、「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係を争う必要はありません。第2訴訟にとって、「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係があるか否かは、無関係なのです。
つまり、第1訴訟の「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係について生じた既判力は、第2訴訟に対して「作用場面にない」のです。
そうだとすれば、一般論として「『固有の抗弁』を有する第三者でも『口頭弁論終結後の承継人』にあたる」と考えるにしても、そもそも、第1訴訟の既判力が生じる権利関係が第2訴訟の権利関係に対して先決関係にない場合には、既判力が作用せず、「既判力の拡張」という論点設定自体が的外れということになってしまうのです。
もう一度確認します。
形式説を採用する場合、
「既判力の拡張は、第三者が前訴で確定された権利関係自体を争い得ないことを意味するにとどまり、固有の防御方法を提出することまで遮断するものではない。」
という論証をしますね。
つまり、形式説は、「既判力の拡張」を「第三者が前訴で確定された権利関係自体を争い得ないことを意味するにとどま」るものと解します。
そして、第1訴訟の「前訴で確定された権利関係」についての既判力が、第2訴訟において作用するのは、第1訴訟の「前訴で確定された権利関係」が第2訴訟の権利関係の先決関係にある場合でなくてはなりません(じゃないと既判力の「作用場面」から外れてしまいます)。
これを本件についてみると、本件の第1訴訟の「XがYに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係は、第2訴訟の「XがZに対して甲土地明渡請求権を有する」という権利関係に対して「先決関係」にはありません。
したがって、本件はそもそも「既判力の作用場面」とはいえず、既判力の拡張云々を論じるのは的外れということになってしまうのです。
2 実質説の「既判力の拡張」の捉え方(実質説の正当性を基礎づける実質的理由)
実質説は、「既判力の拡張」の捉え方を、形式説のように
「既判力の拡張は、第三者が前訴で確定された権利関係自体を争い得ないことを意味するにとどまり」
とは捉えていません。
ここが実質説と形式説の違いです。
すなわち、既判力について、「固有の抗弁」を有する第三者は民訴115条1項3号の「口頭弁論の終結後の承継人」にはあたらないとの実質説は、既判力の拡張の内容を
「前主と相手方間の前訴で確定された権利関係自体を争い得ないのみならず、前主が相手方との間で既判力ある判断を争うために主張することが遮断されるような事項については、承継人も前主と同じく主張することができなくなるもの」
と考えています。
口頭弁論終結後の承継人に拡張される既判力の内容を「前主と相手方間の前訴で確定された権利関係自体を争い得ないのみならず、前主が相手方との間で既判力ある判断を争うために主張することが遮断されるような事項については、承継人も前主と同じく主張することができなくなるもの」として捉えるからこそ、第三者が「固有の抗弁」を有していたとしても、その「固有の抗弁」が遮断されることを懸念して、そもそも「固有の抗弁」を有する者を「口頭弁論終結後の承継人」から外すのです。
このように、形式説と実質説には、「既判力の拡張」の捉え方について考え方に差があります。
そして、形式説の「既判力の拡張」の捉え方によれば、第1訴訟の権利関係が第2訴訟の権利関係に対して先決関係にない場合には、この問題を「口頭弁論終結後の承継人の範囲」の問題として論じることが、そもそも的外れになる、という弊害があります。
これに対して、実質説の「既判力の拡張」の捉え方によれば、かかる問題は生じません。
このように、「既判力の拡張」の仕方という視点で実質的に見た場合、実質説に分があるように思われます。
3 115条2項の解釈(実質説の正当性を基礎づける形式的理由)
以上が実質説の正当性を基礎づける実質的理由です。
以下では、形式的理由についても言及しようと思います。
皆さんは、「執行力」についても「既判力」と同様の議論があることはご存知でしょうか。
民事執行法23条1項3号を確認していただきいと思います(執行法とか知らねぇよ!というお気持ちはわかりますが、これがわかっていないと実質説は理解できないので、どうか少しだけ我慢してください!)。
① 執行証書以外の債務名義による強制執行は、次に掲げる者に対し、又はその者のためにすることができる。
三 前二号に掲げる者の債務名義成立後の承継人(前条第一号…に掲げる債務名義(=確定判決)にあっては口頭弁論終結後の承継人…)
給付訴訟で原告が勝訴した場合、その確定判決を債務名義として、強制執行をかけることが可能です。
そして、その強制執行の相手方となるのは「執行力」が及ぶ者です。
ここで、口頭弁論終結後に被告から訴訟の目的となっている権利を譲り受けた第三者がいた場合に、その第三者に執行力が及ぶのか、という問題が生じるのです。
この点に関して、民執23条1号3号が、口頭弁論終結後の承継人にも執行力が及ぶことを規定しています。
したがって、給付訴訟の原告が勝訴した場合には、もしも口頭弁論終結後に被告が第三者に訴訟の目的物を譲渡してしまったとしても、その第三者に対して、強制執行をかけることが可能なのです。
※ 承継執行文というものの付与が必要となりますが、その点は民事執行法の勉強でがっつりやってください。
そして、既判力の議論と同様に、第三者が「固有の抗弁」を有する場合にも、その第三者が民事執行法23条1項3号の「口頭弁論終結後の承継人」にあたるのか、という議論があるのです。
結論をいうと、執行力については、第三者が「固有の抗弁」を有する場合には、その第三者は執行法23条1項3号の「口頭弁論終結後の承継人」にはあたりません。
この点に争いはありません。
つまり、執行力の場面では、実質説をとることについて、学説・実務に争いはないのです。
その理由については、「承継執行文の簡易付与は第三者が固有の攻撃防御方法を有しないことを確認してから行われる」(権利確認説)という、いかにも闇が深そうな話があるのですが、この点は執行法の勉強で確認してください。
さて、議論を戻しますが、既判力の「実質説」の特徴は、
「前訴確定給付判決の既判力が及ぶ承継人と執行力が及ぶ承継人の範囲を一致させる」
という点にあるのです。
執行力について「実質説」が採用されることに争いはなく、「固有の抗弁」を有する第三者は執行法23条1項3号の「口頭弁論の終結後の承継人」にはあたらないとされているのであるから、既判力についても同様に解して、「固有の抗弁」を有する第三者は民訴115条1項3号の「口頭弁論の終結後の承継人」にはあたらない、と考えるのです。
ここまでのことを前提に、今度は民訴法115条2項という条文を見ていただきたいと思います。
115条2項 「前項の規定は、仮執行の宣言について準用する。」
…なんだこの条文……と思いますね。
こんな条文見たことなくて当然です。
115条1項が既判力の及ぶ者の範囲について規定しているわけですが、2項は、その1項を「仮執行宣言」について準用する、としているのです。
もっというと、仮執行宣言の「執行力が及ぶ者の範囲」についても115条1項を準用する、と述べていることになります。
つまり、2項は(仮執行宣言の)「執行力」について規定ですが、その「執行力が及ぶ者の範囲」も「既判力の場合と同様に考えるよ」と規定している、ということになります。
先ほど、執行力については、「固有の抗弁」を有する第三者は「口頭弁論終結後の承継人」にあたらず、この第三者に執行力は及ばないのが通説であり、争いがない、と述べましたね。
ということは、115条2項によれば、既判力についても執行力と同様に考え、「固有の抗弁」を有する第三者は「口頭弁論終結後の承継人」にあたらず、この第三者に既判力は及ばない(=実質説)、と考えることになるでしょう。
これが実質説の正当性を基礎づける形式的な理由です。
なお、形式説の論者は、115条2項の存在をどのように克服しているのでしょうか。
答えは…
「115条2項は『空文化』している。」
らしいです(笑)
「空文化」ってなんやねん!要は反論できないだけやろ!というぐうの音も出ない反論が飛んできそうです。形式説からすると、やはり115条2項の存在を克服することは難しいのでしょう。
第4 「口頭弁論終結後の承継人」への既判力拡張の意味
「実質説」と「形式説」の話をしましたので、「口頭弁論終結後の承継人」への既判力拡張の意味について、改めて確認しておきます。
以下のような設例を考えてみてください。
土地所有者Xが建物所有者Yに対して建物収去・土地明渡請求の訴えを提起し、その認容判決が確定した場合に、その後にZが、建物とともに敷地の借地権を取得するつもりで、建物をYから取得したときに、前訴判決の既判力がZにどのように拡張されるか。
この既判力の拡張は、次のように2段階にわけて考えると分かりやすいです。
1 元の既判力
まずは、もともとの既判力はどのようなものでしょうか。
これは簡単でしょう。
「Yは、XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの判断に拘束され、その判断を基準時前の事由で争えない。」
というものです。
2 第1段目の既判力の拡張
さて、次は「第1段目の既判力の拡張」です。
元の既判力の内容がZととの関係でも当然に拡張される、と考えれば良いです。
すなわち、
「Zは、XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの判断に拘束され、その判断を基準時前の事由で争えない。」
という内容となります。
前述したように、形式説を採用する論者は、「既判力の拡張は、第三者が前訴で確定された権利関係自体を争い得ないことを意味するにとどま」ろと論証するのですから、既判力の拡張は、第1段目まで、ということになります。
※ 形式説では、第1段目までの拡張しか認められないからこそ、前述した形式説の弊害が生じるのです。
3 第2段目の既判力の拡張
次は、「第2段めの既判力の拡張」です。
第2段目では、元の既判力が変容された形で、Zに対して拡張されます。
すなわち、
❶ XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの主張(Xの所有地にZが無権限で建物を所有しているという事実によりZがXに対して建物収去土地明渡請求義務を原始的に負っているとの主張)を
❷ 既判力の基準時前の事由(ex.前訴の口頭弁論終結時に、Xが土地所有権を有していないこと、あるいは、Yが借地権を有していたこと[それを口頭弁論終結後にZが承継したこと])で争うことは禁止される。
という内容となります。
これを要約すると、
「前主が相手方との間で既判力ある判断を争うために主張することを遮断されるような事項は、承継人も前主と同じく主張することができない」
となるでしょう。
前述したように、実質説の論者は、口頭弁論終結後の承継人への既判力の拡張の内容を第2段目まで含めて理解します。
第5 まとめ
いかがでしょうか。
今回はかなり重い内容だったと思います。
ここまでの内容を完璧に理解する必要はないと思いますが、せめて、実質説と形式説のいずれを採用するかによって口頭弁論終結後の承継人への既判力の拡張の仕方が変わってくること、実質説は執行力と既判力の拡張の範囲を一致させる見解であること、の2点は理解しておくことをおすすめします。
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