TIPPP’s blog

弁護士1年目。民訴オタクによる受験生のためのブログです。予備校では教わらないけど、知っていれば司法試験に役立つ知識を伝授します。https://twitter.com/TIPPPLawyer

第23回補足 確認の利益〜「確認対象の適否」の「過去の法律関係」の意味

 第23回で、確認の利益の説明をしましたが、「確認対象の適否」の「過去の」の意味について付言しておきます。

 

 たとえば、次回の記事でメインテーマにする「遺言無効確認の訴え」について考えてみましょう。

 

 結論を先取りしてしまいますが、遺言者の死亡後に提起された遺言無効確認の訴えの確認対象は「過去の」法律関係であるといわれています。

 

 どうでしょう、「遺言が無効であること」の確認が「過去の」法律関係の確認であるといわれて、皆さんはすんなりと腑に落ちますか?

 

 たしかに、遺言書を作成したのは「過去」ですよね。

 

 でも、「遺言の無効」って、「現時点で存在している遺言が無効であること」の確認ともいえませんか?

 

 そうなると、「遺言の無効」って「現在の」法律関係の確認?

 

 いい感じで混乱していただいたところで、役に立つ考え方を示しておきます。

 

 実は、「確認対象の適否」でいう「過去の法律関係」には2つの意味があります。

 

 1つ目は、文字どおり、「過去の法律関係そのもの」であり、現在の法律関係よりも時間的に前の法律関係を意味します。時間的先後関係という意味での「過去」です。

 

 2つ目は、「ある法律関係の前提たる別の法律関係」という意味です。「基本的法律行為」なんて言ったりもします。

 

 2つ目は、時間的先後関係に着目しているのではなく、ある法律関係の前提となった法律行為を「過去の」法律行為と表現しているのです。

 

 「遺言の無効」というのも、「過去」という言葉を、この2つ目の意味で捉えると大変わかりやすいはずです。

 

 現在の法律関係が「相続財産が共有状態にあること」であるのに対して、その前提となる法律行為として「遺言(の無効)」が存在するのです。

 

 それと、これは超おまけなのですが、皆さんは、「過去の法律関係」の確認の利益の有無が問われた際に、「過去の法律関係・法律行為であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接的かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、例外的に、確認の利益が認められる。」といった論証をしますよね。

 

 この論証と同様のことを言っている最高裁判決の補足意見ってご存知でしょうか。意外と知らないと思います。

 

 実は、昔の判例百選に掲載されていた最判昭45.7.15(百選1版65)の大隅裁判官補足意見が同様の論証をしております。

 

 この判例は、身分関係訴訟についてのもので、戦死した者が自分の息子であることの確認を求める母親の訴えに確認の利益を認めた、というものでした。

 

 この判決の中で大隅裁判官の補足意見は以下のように述べます。

 

 「しかしながら、このことは、現在の法律関係において確認の利益が定型的に顕著に認められるから、それが確認の訴の通常の対象とされることを意味するものであって,過去の法律関係であれば当然に確認の訴の対象として適格を欠くことを意味するものではない。」「現在の権利または法律関係の確認個別的な確定が、必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえってそれらの権利または法律関係の基礎にある過去の基本的な法律関係を確定することが現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合のあることは否定しがたいところであって、このような場合には、過去の法律関係の存否の確認を求める訴えであっても、確認の利益があるものと認めて、これを許容すべきものと解するのが相当である」。

 

 「過去の法律関係でも確認の利益が認められる場合がある」という論点について、この世で最も美しい論証であると思いますので参考にするとよいでしょう。

 

 

 

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