TIPPP’s blog

民訴オタクによる受験生のためのブログです。予備校では教わらないけど、知っていれば司法試験に役立つ知識を伝授します。https://twitter.com/TIPPPLawyer

第8回 「『権利保護の資格』(請求適格)と『権利保護の利益』(訴えの利益)」

第1 導入

 

 皆さんは、「権利保護の資格」「権利保護の利益」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 

 僕が受験生時代に勉強していたとき、将来給付の訴えの論点(よくある「空港騒音の損害賠償請求」のやつ)の論証で以下のようなものを目にしました。

 

 

 「将来給付の訴えが許されるためには、無駄な訴訟を排するために、①請求権としての適格性があり、かつ、②「あらかじめその請求をする必要がある」(135条)こと(将来給付の訴えの利益)が必要と解される。」

 

 

 ここで、ん??と思った記憶があります。

 

 まず、①の「請求権としての適格性」ってなんぞ?という点です。

 

 また、②について「(将来給付の訴えの利益)」ってなってるけど、そしたら、①は将来給付の利益じゃないって意味?どいうこと?

 

という疑問です。

 

 

 勉強をすすめるうちにわかったのですが、実はこれにはカラクリがありました。

 

 そのカラクリがなかなか頭の整理に役立つものだったので、今回はそのカラクリを説明します。 

 

 

 

第2 「権利保護の資格」と「権利保護の利益」

 

 さっそくですが、「権利保護の資格」と「権利保護の利益」の概念の説明にかかっていこうと思います。

 

 また、いつもどおり、外堀から埋めてく方式の迂遠な説明からはじめます。

 

 以前、第◯回(←忘れた)のブログで、当事者能力と当事者適格の違いについてお話したのを覚えているでしょうか(読んでくれたでしょうか)。

 

 もう一度簡単におさらいしますと、当事者能力とは、訴訟において当事者となることができる「一般的な」資格であり、対して、当事者適格とは、当該訴訟において当事者となることができる「個別的な」資格でありました。

 前者が「目の粗いざる」で後者が「目の細かいざる」なんて言われます、ってことはお話したと思います。

 

 ところで、受験生の皆さんは、訴訟要件についての以下のような区別を意識したことはあるでしょうか。

 

 すなわち、

 

当事者能力、当事者適格は「当事者」に着目した訴訟要件であり、

訴えの利益は「訴訟物」に着目した訴訟要件である。

 

という着眼点です。

 

 そんなん当たり前やん、ってなること請け合いですが、勘の鋭い方、ここで気づくのではないでしょうか。

 

 あれ?「当事者」に着目した訴訟要件として、「目の粗いざる」としての当事者能力、「目の細かいざる」としての当事者適格があるのに、「訴訟物」に着目した訴訟要件としては「訴えの利益」しかないの??

 

という点です。

 

 たしかに、当事者となることができる「一般的」資格としての当事者能力とパラレルに、その訴訟物が「一般的」に訴訟対象となってよいのか、ということを選別する訴訟要件はあってもよさそうですし、当事者となることができる「個別的」資格としての当事者適格とパラレルに、その訴訟物が「個別的」に訴訟対象となってよいのか、ということを選別する訴訟要件はあってもよさそうです。

 

 ・・・はい。実はあるんです。

 

 それが「権利保護の資格」と「権利保護の利益」という概念です。

 

 ここで、大阪国際空港事件の判旨にしたがった論証を見てみましょう(皆さんもお馴染みなはず!)

 

【論証】

 ここで、将来給付の訴えが許されるためには、無駄な訴訟を排するために、①請求権としての適格性があり、かつ、②「あらかじめその請求をする必要がある」(135条)こと(将来給付の訴えの利益)が必要と解される。

 それでは、本問の場合、請求適格が認められるか。本問のような将来の不法行為に基づく損害賠償請求権の場合、請求権の原因たる事実さえ、未だ発生していないため、そもそもそのような請求権が将来給付の訴えの対象となるべき適格性を有しているかが問題となる。

 この点、請求適格の有無は、不法行為終了までに何度も訴えを提起しなければならないことになる原告の起訴負担と、事情変更により損害が消滅・減少した場合には請求異議の訴え(民執35条)を提起しなければならないことになる被告の起訴負担に配慮する必要がある。

 そこで、起訴負担の公平分担の見地から、(1)請求権の基礎となる事実関係の存在とその継続が予測されること、(2)右請求権の成否・内容につき債務者に有利な将来の変動事由があらかじめ明確に予測されること、(3)かかる変動事由を請求異議事由として債務者に提訴の負担を課しても不当でないこと(立証の難易で判断するのが一般的である)の3要件を満たす場合にのみ、請求適格が認められると解する(大阪空港事件判決に同旨)。

 

 以上の論証において、「①請求権としての適格性」が認められるために、(1)~(3)の要件があげられていますね。

 

 実はこの(1)~(3)は、「その訴訟物が訴訟対象となってよいといえるための『一般的』要件」なのです。

 

 「具体的な事情はさておき、この(1)~(3)の要件を満たさない訴訟物は、基本的に審判対象とは認めないよ!」とされているのです。

 

 これはまさに、当事者能力と同じように「目の粗いざる」の機能を果たしています。

 

 この「請求権としての適格性」と表現されるものが「請求適格」と呼ばれるものであり、「当事者能力」と「当事者適格」の関係でいう当事者能力的な機能を果たしているものです。

 

 話をわかりやすくするために、昔の話をします。

 実は、かつては、「権利保護の資格」と「権利保護の利益」という概念が存在していました。「請求の内容が判決で確定されるに適する一般的資格のあるものであること」が前者であり、「原告がこれらについて判決を求める現実の必要性のあること」が後者である、とされていました。前者は、個々の事件の特性に左右されず、後者は、個々の事件の特性に左右されることになります。

 

 気づいた方も多いと思いますが、「権利保護の資格」こそが「請求適格」であり、「権利保護の利益」こそが現在「訴えの利益」と呼ばれるものです。

 

 つまり、かつては、当事者に着目した「当事者能力」と「当事者適格」の区別と同じように、訴訟対象物に着目した「権利保護の資格」(目の粗いざる)と「権利保護の利益」(目の細かいざる)という2つの概念が語られていたんです。

 

 それが現在では「請求適格」と「訴えの利益」の概念の区別として、ひっそりと継承されているというわけです。

 

 

 

第3 確認の訴えの利益の場面での「権利保護の資格」と「権利保護の利益」

 

 さて、さらに理解を深めるために、確認の訴えの利益の話をしましょう。

 

 確認の訴えの利益が認められるためには?

 

 これがわからないとまずいです。

 

 ①確認対象が適当であること

 

 ②即時確定の利益があること

 

 ③方法選択が適当であること

 

ですね。

 

 ここで、①確認対象が適当である、と認められるためには、

 

「自己の、現在の、権利法律関係の、積極的確認訴訟」

 

である必要がありました。

 

 いきなりネタバレしますが、実は、この①「確認対象が適当であること」という要件こそ、「権利保護の資格」(請求適格)なんです。

 

 中身をみればわかるとおもいますが、「自己の、現在の、権利法律関係の積極的確認訴訟」でなければ、「個別具体的な事情はさておき」訴訟対象物として認めないからな!という内容ですね。

 

 つまり、この①「確認対象が適当であること」は、訴訟対象物選別の「一般的」基準であって、「権利保護の資格」(請求適格)そのものなのです。

 

 そして、「権利保護の資格」としての「確認対象の適当性」が認めれられた訴訟対象物は、「即時確定の利益」という、訴訟対象物選別の「個別的」基準に難関に挑むことになります。

 

 つまり、「即時確定の利益」が「権利保護の利益」(=訴えの利益)ということになります。

 

 

 

第4 「権利保護の資格」と「権利保護の利益」の区別は死んだのか

 

 なお、現在では、あまり「請求適格」と「訴えの利益」が明示的に区別されて語られることはありません。

 

 三ヶ月先生も、両概念の限界は明確ではなく、またそのどちらに属するかによって訴訟上の扱いが変わるわけでもない(どちらも却下である)ため、この区別は現在では重視されず、ともに訴えの利益の用語に包含されるに至っている、と述べています。

 

 また、現在でも、民訴学者の伊藤眞先生をはじめ、両者を区別すべきという学者さんはいます。

 しかし、「権利保護の資格」がないとされたとしても(たとえば、過去の法律関係の確認だとされたとしても)、それで直ちに訴え却下を導かないのが現在の学説・判例の立場です。

 「権利保護の資格」(=請求適格)がなければ、訴え却下に傾くとはするだろうが、なお「権利保護の利益」の有無を判定し、「権利保護の利益」があるとされれば訴訟要件ありとして本案判決をすると考えられています。

 たとえば、確認対象が「過去の」ものであっても、確認の利益は認められることがありますね。 

 これは、「権利保護の資格」がなくても「権利保護の利益」が強ければも訴訟対象物として認めてやろう!という現在の民訴法の姿勢の表れです。

 

 そうだとすると、「権利保護の資格」は大きな篩の意味も十分には持っておらず、結局は「権利保護の利益」の有無で訴訟要件充足が判断されているのであり、「権利保護の資格」は「権利保護の利益」に吸収されたとみてよいのではないか、と僕は考えています。

 

 

 

第5 まとめ

 

 訴訟対象物を選別する「一般的」基準としての「権利保護の資格」(請求適格)、「個別的基準」としての「権利保護の利益」(訴えの利益)という概念が存在していることは、頭の片隅においておくと、確認の利益等の学習の際に、底流の部分を理解することが出来ます。

 

 今後も、このような直接脳内に語りかけてくる系の知識を紹介していこうと思います。

 

 

 

 

 

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