第16回 既判力の「作用場面」とは
第1 導入
今回は「既判力の『作用場面』」の正体について説明しようと思います。
第15回(前回)の記事の中で、「多くの受験生が『既判力の作用場面』の理解を勘違いしているぞ!だからいつかこの点も書くぞ!」的な上から目線のことを述べたのですが、有言実行を貫きたかったので早速、記事にしてみます。
「既判力の作用場面」とは、
- 前訴と後訴の訴訟物が同一である場合、
- 前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が先決関係にある場合、
- 前訴と後訴の訴訟物が矛盾関係にある場合、
という形で論じられることは皆さんも御存知でしょう。
「既判力の作用場面」についての①~③の理解は間違っていませんし、既に①~③を「既判力の作用場面」であるとして暗記済である人は、その記憶を大脳皮質に末永く刻み込んでいただいて結構です。
しかし、①~③を既に暗記している方の中には、「既判力の作用場面」についての理解のベクトルを誤っている人がいるかもしれません。
そこで、今回の記事では、「既判力の作用場面」についての理解の正しいベクトルを示し、既判力の本質を理解する手助けができたらいいなぁ、と思っています。
第2 「既判力の作用場面」とは
さて、いきなり本題に入りますが、「既判力の作用場面」とはなんでしょうか。
「既判力の作用場面」については、短答試験でも出題がされますが、その設問としては、
以下の1~5の中で、既判力の作用場面といえるものを2つ選べ
といったものが多いと思います。
ここで皆さんが問われていることは、「1~5の各場面で既判力が作用するか」という点です。
では、「1~5の各場面で既判力が作用するか」とは、もっと深掘りするとどのようなことを聞いているのでしょうか。
回答の際には、必ず自分が何を問われているのか、ということを噛み砕いて説明できるようにしてください(←運良く合格できただけでこんな上から目線の物言いをしていますが、僕自身、これが超難しいことは十分承知!)。
「1~5の各場面で既判力が作用するか」とは、つまりは「1~5の場面の中で、既判力が有効に働く場面はどれか」ということです。
「1~5の場面の中で、前訴判決の既判力の遮断効が後訴において活躍する場面はどれか」といってもよいでしょう。
「この場面で既判力が作用するか」といわれたところで、何を問われているのかあまりイメージがわかないかもしれませんが、「この場面で既判力は有効に働きますか」「この場面で既判力の遮断効は機能しますか」と問われれば、多少なりともイメージがわきやすいのではないでしょうか。
たとえば、以下のような事例を考えてみましょう。
XはYに対して甲土地の所有権確認請求訴訟を提起し、X勝訴の判決が確定した。その後、XはYに対して、所有権に基づく甲土地の明渡請求訴訟を提起した。
この場面は、「既判力の作用場面」といえるでしょうか(ここではいったん「確認の利益」の有無については置いておきましょう。確認の利益はあることを前提に考えて下さい。)。
前述したように、「既判力の作用場面」とは「既判力が有効に働く場面」ないし「前訴判決の既判力の遮断効が後訴において活躍する場面」です。
そして、既判力とは、「前訴判決主文の判断を前訴の口頭弁論終結時までに提出し得た事由で争えなくなる」という効力です(遮断効)。
本問の、前訴判決主文の判断は、「甲土地についてXに所有権があること」ですから、XとYは、後訴において「甲土地についてXに所有権があること」を前訴までに提出し得た事由で争うことができなくなります。
後訴の訴訟物は、「Xの所有権に基づく返還請求権としての甲土地明渡請求権」ですから、請求原因として「Xが甲土地を所有していること」を主張立証する必要があります。
これは、前訴判決の既判力が生じる部分である「甲土地についてXに所有権があること」と丸かぶりするので、本問は「既判力が有効に働く場面」ないし「前訴判決の既判力の遮断効が後訴において活躍する場面」ということになります。
なぜなら、後訴でYが「甲土地についてXに所有権はない!」と主張したくても、前訴判決の既判力によって「甲土地についてXに所有権があること」を前訴基準時前の事由で争えなくなるのですから、前訴判決の既判力が後訴において「有効に働いている」といえるからです。
ちなみに、この場面は、「前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が先決関係にある場合」ということになります。
念のため、もうひとつ考えてみましょう。
XはYに対して所有権に基づく甲土地の明渡請求訴訟を提起し、X勝訴の判決が確定した。その後、XはYに対して、甲土地の所有権確認請求訴訟を提起した。
この場面は、「既判力の作用場面」といえるでしょうか。
前訴確定判決の既判力は、判決主文の判断である「Xの所有権に基づく甲土地の明渡請求権が存在する」という点に生じる一方で、判決理由中の判断たる「甲土地についてXに所有権があること」には生じません。
したがって、「Xの所有権に基づく甲土地の明渡請求権が存在する」という判断についての既判力が存在するとしても、後訴において、Yは自由に「甲土地についてXに所有権がない!」ということを主張できることになります。
つまり、前訴判決の既判力が後訴においては無意味なのです。
この意味で、本問は、「既判力が有効に働く場面」ないし「前訴判決の既判力の遮断効が後訴において活躍する場面」ではない、ということになります。
第3 「既判力の作用場面」を考える際の方向性
さて、これまで「既判力の作用場面」が何を問うているのか、ということを確認しましたが、勘の鋭い人は、この時点で、僕の伝えたいことの本旨に気づいているかもしれません。
僕が冒頭で「『既判力の作用場面』の理解を勘違いしている人が多い」と述べたのとも関わる話なのですが、ここで一番伝えたいのは、
「(本問は)『既判力の作用場面』だから既判力を問題にする必要がある」のではなく、「既判力の遮断効は~という効力であるから、(本問は)『既判力の作用場面』であるといえる」という論理関係がある、
ということなのです。
予備校本では、「既判力の作用場面としては、①前訴と後訴の訴訟物が同一である場合、②前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が先決関係にある場合、③前訴と後訴の訴訟物が矛盾関係にある場合がありますよ。」的な書き方をされており、その記述自体決して間違っていません。
ところが、読み手としては、「『既判力の作用場面』とは、既判力が問題になる場面だから、とりあえずは本問が『既判力の作用場面』にあたるかを検討しよう!」という心構えをしてしまいます。
しかし、前述したように、「既判力の作用場面」とは、「既判力が有効に働く場面」ないし「前訴判決の既判力の遮断効が後訴において活躍する場面」なのであって、「既判力(の遮断効)とはどのような効力で、どのような点に生じるのか」という点を明らかにすれば、自ずとその場面が「既判力の作用場面」なのかが明らかになるという関係にあります。
「『既判力の作用場面』であるから既判力が生じる」、のではなく、「既判力の効力がそういう効力であるから、本問の場面では既判力が有効に機能することとなり、よって本問の場面が『既判力の作用場面』といえる」のです。
「既判力の作用場面」とは、上記①~③を暗記するものとして理解している人は多いのではないでしょうか。
しかし、①~③を暗記する必要などありません。
既判力の効力がどのような効力かわかれば、本問の場面が「既判力が有効に機能する場面」なのかは当然にわかるのです。
それがたまたま、①前訴と後訴の訴訟物が同一である場合、②前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が先決関係にある場合、③前訴と後訴の訴訟物が矛盾関係にある場合だっただけです。
第2の部分で、「甲土地の所有権に基づく返還請求訴訟」と「甲土地の所有権の確認訴訟」のどちらが先行している場合が、②の「前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が先決関係にある場合」にあたるのか、覚えるの大変だなぁ、って思ってた受験生も多いと思います。
しかし、こんなことは覚えるものではなく、理解する問題です。
「既判力は判決主文の判断について生じる」ということがわかれば、「甲土地の所有権の確認訴訟」が「甲土地の所有権に基づく返還請求訴訟」に先行する場合にだけ、前訴判決の既判力が後訴において「有効に機能する」ということがわかるはずです。
何度も言いますが、「『既判力の効力』の理解ありきの『既判力の作用場面』の確定」なのであって、「『既判力の作用場面』の暗記ありきの『既判力』の生じる場面の確定」ではありません。
「既判力の作用場面」についての論理の順序を誤らないようにしてください。
第4 まとめ
今回はわりとライトめに「既判力の作用場面」の理解の方向性について書きました。
このテーマは言われれば簡単なことだと思いますし、自明的にではないにせよ、当然のこととして理解している人も相当数いるかもしれません。
しかし、僕的には、受験生時代にこのテーマについて自明的に理解できたことで、既判力についての理解がかなり進んだような気がしましたので記事にしてみました。
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