TIPPP’s blog

弁護士1年目。民訴オタクによる受験生のためのブログです。予備校では教わらないけど、知っていれば司法試験に役立つ知識を伝授します。https://twitter.com/TIPPPLawyer

第14回 「訴訟物」の捉え方~「二重起訴の禁止」にいう「訴訟物が同一」とは

 

第1 導入

 さて、今回は「『訴訟物』の捉え方」について書いていこうと思います。

 

 以前、「二重起訴の禁止」(142条)をテーマにした答練を採点しました。

 

 その中で、「二重起訴の禁止」に抵触するかの判断基準の論述が求められていたのですが、「訴訟物」の捉え方について鋭い疑問を持たれている方がおられましたので、説明をしていきたいと思います。

 

 「『訴訟物』の捉え方!」とかいわれたところで、その問題設定自体がかなり曖昧ですので、以下「どういった場面」の「どういった疑問」についての説明なのか、ということも書いていきます。とりあえず読み進めてみて下さい!

 

 

第2 「事件の同一性」とは(確認)

 さて、復習ですが、「二重起訴の禁止」に抵触するかどうかの判断基準はいかなるものでしょうか。

 

 「事件の同一性」ですよね?

 

 それで、「事件の同一性」を検討するにあたって、何を検討するんでしょうか。

 

 「当事者の同一性」と「審判対象の同一性」ですね。

 

  1. 「事件の同一性」が認められると「二重起訴の禁止」に抵触することになる
  2. 「事件の同一性」が認められるためには、「当事者が同一」かつ「審判対象が同一」と言える必要がある

 

ということです。

 

 採点をしていても、「事件が同一」、「当事者が同一」、「審判対象が同一」という概念の使い分けができてない人がそこそこいるので是非注意して下さい。

 

 

第3 「審判対象が同一」とは

1 導入

 さて、ここからが今回の記事の本題です。

 

 皆さんは、「審判対象が同一」とはどういう意味だと考えているでしょうか。

 

 「訴訟物が同一」か、「訴訟物の基礎をなす権利関係が同一

 

と教わっている人が多いのではないでしょうか。

 

 そして、「二重起訴の禁止」をテーマにした問題を何度も問いたことがある人は、「訴訟物が同一」ということの意味について、カオスを感じたことがあるのではないでしょうか。

 

 そういった疑問を持ったことがない、という人も多くいると思いますので、そのカオスの意味についてご説明します。

 

2 「訴訟物」の捉え方

(1) 「審判対象の同一性」の2つの考え方

 以下の問題を考えてみて下さい(簡単な設問です。)。

 

「甲は乙に対して、α債務不存在確認の訴え(第1訴訟)を提起した。その訴えの係属中に、乙が甲に対して、α債務の履行請求訴訟(第2訴訟)を提起することは、二重起訴の禁止に抵触するか」

 

 もう直感的に、この給付請求の第2訴訟が二重起訴の禁止に抵触することはわかると思います。

 

 その直感を信じて、「事件の同一性」の検討を行って下さい。

 

 まず、「当事者の同一性」については、なんか「原告と被告が入れ替わっているが~」みたいな論証をして終わりですよね。「当事者の同一性」は認められます。

 

 さて、問題は「審判対象の同一性」です。

 

 そう、この部分での回答パターンは2つにわかれるんです。

 

 すなわち、

 

  1. 第1訴訟の訴訟物と第2訴訟の訴訟物は同一であるから、審判対象の同一性が認められる
  2. 第1訴訟の訴訟物と第2訴訟の訴訟物は異なるが、その基礎をなす権利関係は同一であるから、審判対象の同一性が認められる

 

という2パターンです。

 

 受験生の多くの方は、パターン1にしっくり来る方が多いかもしれません。

 

 実は、この2つのパターンは、それぞれで「訴訟物」の捉え方についての考え方が異なっているのです。

 正確にいうと、「『訴訟物』という概念をどこまで厳格に捉えるか」という問題に帰結します。 

 

(2) 「訴訟物」を「権利関係の主張」だと捉える考え方(パターン1)

 皆さんは、「訴訟物」について、どのような定義付けをしていますか。

 

 訴訟物とは、「審判の対象となる権利関係の主張」である

 

と理解している人が多いのではないでしょうか。

 

 訴訟物について、この理解の仕方をするのであれば、請求の趣旨の内容をなす権利関係(本問の場合、α債権)が同一であったとしても、確認訴訟たる第1訴訟と給付訴訟たる第2訴訟の訴訟物は異なる、ということになりますね。

 

 つまり、訴訟物について、「審判対象となる権利関係の主張」であると理解するならば、上記パターン1を採ることになります。

 

(3) 「訴訟物」を「権利関係」だと捉える考え方(パターン2)

 しかし、ロースクールで実務家の先生から要件事実の講義を受けたりすると、

 

「訴訟物とは、『審判対象となる権利関係』だよ。」

 

的なことを言われたりしたことがないでしょうか。

 

 実務家が書いた本などでも、訴訟物とはあくまで、「権利関係」であって、「権利関係の主張」であるという定義付けはあまりされていません。

 

 つまり、多くの実務家から言わせると、「α債務の不存在確認の訴え」の訴訟物も、「α債権の履行請求訴訟」の訴訟物も、いずれも「α債権(債務)」という権利関係なのであって、両者の訴訟物は同一ということになります。

 

 この理解を前提とすると、パターン2を採ることになります。

 

3 カオスの原因

 さて、もうおわかりと思いますが、以上のような「訴訟物の捉え方」の違いに、先程指摘したカオスの原因があります(いい加減「混乱」て書きたいんですけど引っ込みつかなくなりました) 

 

 予備校や、訴訟物について厳格な解釈をしてらっしゃる学者さんに「民訴のいろは」を教わった人からすると、「訴訟物」とはあくまで、「権利関係の主張」なのです。「権利関係が同一でも、訴訟形態(確認訴訟or給付訴訟)が違えば、訴訟物は異なる」ものだというアイデンティティが構築されてしまっているのです。

 

 実務家の視点に触れていない段階では、上記設問の回答も当然にパターン1のものとして迷いが無かったはずです。

 

 しかし、実務は、実は「訴訟物の捉え方」をそんなに厳格に解しておらず、「訴訟物」とは「権利関係」であると運用されているのです。

 

 つまり、実務家的には「権利関係が同一であれば、訴訟形態(確認訴訟or給付訴訟)が違えど、訴訟物は同一である」と理解されます。

 

 裁判官に対して、

 

「権利関係が同一でも、訴訟形態が違えば訴訟物は異なりますよね!?」

 

と聞けば

 

「は?」

 

という感じで、「ちょっと何言ってるかわからないです感」をだされます(僕はロースクール時代に実際にこの質問を裁判官にしたところ、「はっ?」といわれました。)。

 

 本問のような二重起訴に関する論文試験を解いても、その解答例を実務家視点の人が書けば、パターン2で書かれるわけですから、皆さんが培ってきた「訴訟物」とは「権利関係の主張」だよ、というアイデンティティは崩れ去ることになります。

 

 これがカオスの正体といことです。

 

4 パターン1、パターン2のいずれをとるべきか

 さて、「審判対象の同一性」についてのカオスが、訴訟物の捉え方に起因していることがわかったところで、皆さんは、パターン1とパターン2のいずれをとるべきなのでしょうか。

 

 もっというと、「訴訟物」の意義について、「権利関係の主張」と捉えるか、「権利関係」と捉えるか、どちらの立場に立つべきでしょうか。

 

 個人的には、訴訟物とはやはり、「権利関係」として捉えるべきと思います。

 実務家に魂を売りました。

 

 前述した裁判官の「はっ?」が印象的だったんです。

 

 実務家は本当に、訴訟物を「権利関係の主張」ではなく、「権利関係」であると捉えています。 

 

 実際に民裁修習をしていても、

 

「この事件の訴訟物は何かな?」

 

という質問を裁判官にされることは多いのですが、期待されている回答は、「所有権に基づく妨害排除請求権」、「消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」といったように、「権利関係」を指摘する回答です。

 

 そして、実務が「訴訟物」の意義について「権利関係」そのものであるという捉え方をしている以上、実務家登用試験たる司法試験的には、その解釈に従うのが穏当です。

 

 

5 「審判対象の同一性」の判断要素

 さて、訴訟物を「権利関係」そのものと捉えた場合、「α債務不存在確認訴訟」の訴訟物と「α債権の履行請求訴訟」の訴訟物は、いずれも「α債権(債務)」であり、同一です。

 

 ところで、「訴訟物」を「権利関係の主張」であると捉えることを前提とした場合には、前述したように、「審判対象の同一性」は、

 

  1. 第1訴訟の訴訟物と第2訴訟の訴訟物は同一であるから、審判対象の同一性が認められる
  2. 第1訴訟の訴訟物と第2訴訟の訴訟物は異なるが、その基礎をなす権利関係は同一であるから、審判対象の同一性が認められる

 

の2つの要素で検討していましたね?

 

 しかし、訴訟物を「権利関係」そのものと捉えた場合、「1 第1訴訟の訴訟物と第2訴訟の訴訟物は異なるが、その基礎をなす権利関係は同一である」場合が不要となります。

 

 そこで、今まで使用していた「審判対象の同一性」を判断するための規範も変えなくてはなりません。

 

 僕は、受験時代は「審判対象の同一性」が認められるパターンとして、以下のような規範を立てていました。

 

  1. 訴訟物が同一で、かつ、訴訟上の請求も同一
  2. 訴訟物が同一だが、訴訟上の請求が異なる

 

 あくまで、「訴訟物」は「権利関係」です。そういう立場に立ちます。

 

 そして、本問では、「α債務不存在確認訴訟」の第1訴訟と「α債権の履行請求訴訟」のの第2訴訟の訴訟物は、いずれも「α債権(債務)」であり、訴訟物は同一です。

 しかし、「訴訟上の請求」は、片や確認訴訟で、片や給付訴訟であり、異なっています。

 したがって、上記パターン2の形態をとることにより、二重起訴の禁止に反する、ということになります。 

 

 

第4 補足

 なお、上記パターン1とパターン2を書き分けることにどういった意味があるのか、という疑問を持つ方もいるかもしれません。

 

 皆さんは、二重起訴の禁止に関して、

 

142条に抵触する場合には、①即座に訴え却下とされる場合と、②訴え却下とはせずに、弁論を併合ないし反訴強制をすることがある

 

ということを聞いたことがないでしょうか。

 

 ロースクールでは必ず習う話なのですが、たとえば、本問でも、α債務の不存在確認訴訟の第1訴訟よりも、α債務の履行請求訴訟の第2訴訟の方が執行力ある判断が得られて、紛争解決機能は高いものとなります。

 

 このような場合には、あえて、第2訴訟を却下とせず、反訴を強制する訴訟指揮をして、第2訴訟を残すのです(反訴をさせれば、併合審理されますから、第1訴訟の訴訟資料の流用も可能です)。

 

 ①142条に抵触する場合に、即座に訴え却下とされる場合が「狭義の二重起訴の禁止」の場面と言われるのに対して、②142条に抵触する場合に、弁論を併合ないし反訴強制の訴訟指揮をする場合は「広義の二重起訴の禁止」の場面と言われたりもします。

 

 そして、上記パターン1(訴訟物が同一で、かつ、訴訟上の請求も同一)は、実は、常に「狭義の二重起訴の禁止」の場面となるのです。

 

 つまり、訴訟物が同一で、かつ、訴訟上の請求も同一ならば、常に別訴は却下となります。

 

 対して、上記パターン2(訴訟物が同一だが、訴訟上の請求が異なる)は、「広義の二重起訴の禁止」の場面になりえます

 

 第1訴訟と第2訴訟の執行力の有無等を比較して、第2訴訟を残しておく有意性が認められるなら、弁論を併合したり、反訴を強制する訴訟指揮をしたりするのです。

 

 このように、パターン1とパターン2の書き分けは、二重起訴の禁止の「効果」の面での分岐を考える上で有用なのです。

 

※ 「狭義の重複訴訟の禁止」と「広義の重複訴訟の禁止」については、また回を改めてしっかり説明しようと思います。

 

 

第5 まとめ

 なかなかヘビーな内容となりましたが、「訴訟物の捉え方」を整理することで、「審判対象の同一性」の判断基準に関するモヤモヤが多少なりとも解消されたのではないでしょうか。

 

 民訴は論理パズルのような科目ですから、概念や要件の理解について、ほころびがでるとそれが全体に波及します。

 

 ほころびが出やすい部分はそこまで多くはないですから、少しずつ概念や要件を自分なりに整理しておくことをおすすめします。

 

 

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