TIPPP’s blog

弁護士1年目。民訴オタクによる受験生のためのブログです。予備校では教わらないけど、知っていれば司法試験に役立つ知識を伝授します。https://twitter.com/TIPPPLawyer

第18回 固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別

 

第1 導入

 今回は、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」というテーマで説明をしていきたいと思います。

 

 ところで、前回(第17回)は、「当事者適格の有無の判断基準」というテーマで説明をしましたが、実は今回のテーマは前回のテーマと密接に関連する部分があります。

 

 というのも、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」という作業自体が、「当該訴訟において誰を当事者にしなくてはならないか」という当事者適格者の選定の作業そのものであるからです。

 

 今回は、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」とはどのような作業なのか、どのような基準をもってこの作業に挑むべきなのか、という点について考えたいと思います。

 

 

第2 「固有必要的共同訴訟」と「通常共同訴訟」の違い

 まずは、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」という論点についての検討を進める前提として、「固有必要的共同訴訟」と「通常共同訴訟」の概念的な整理をしていこうと思います。

 

 実はこの話は、この第5回の記事(「多数当事者訴訟における『訴訟共同の必要』と『合一確定の必要』」)において書いたこととだいぶ重なります。

 

 第5回の復習となりますが、「通常共同訴訟」、「必要的共同訴訟」、「固有必要的共同訴訟」、「類似必要的共同訴訟」の概念の異同を正確に理解するためには、「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」という言葉を知っておく必要があります。

 

 まず、「訴訟共同の必要」とは、「その訴訟が一定の範囲の者の共同訴訟となることが要求されること」でした。

 

 対して、「合一確定の必要」とは、「民訴法40条によって『裁判資料の統一』と『手続進行(訴訟追行)の統一』が要求されること」でした。

 

 そして、上記概念の異同の把握にとっては、各概念が「訴訟共同の必要」と「合一確定の必要」のいずれの場面を土俵にしたものであるのかを理解する必要があります。

 

 すなわち、「訴訟共同の必要」は訴訟を提起するスタート段階での問題であり、このスタート段階で誰を当事者にしなくてはならないのか、ということを問題とします。

 

 そして、訴訟のスタート段階で関係者全員を当事者にしなくてはならないのが「固有必要的共同訴訟」であり、その必要が無いのが「通常共同訴訟」でありますから、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」の論点は、「訴訟共同の必要」の土俵での問題ということになります。

 

 対して、「合一確定の必要」は、訴訟を提起した後の訴訟進行中に民訴法40条の規律を受けるかどうかという問題です。

 

 40条の適用を受けるのは「必要的共同訴訟」ですから、「必要的共同訴訟」と「通常共同訴訟」の概念の区別が問題となるのは、「合一確定の必要」の土俵です。

 

 概念の整理をまとめると以下の図のようになります。

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 以上の説明の詳細については、第5回の記事を見ていただきたいと思います。

 

 以上のように、「固有必要的共同訴訟」と「通常共同訴訟」の概念の整理は、「訴訟共同の必要」の土俵(=訴訟のスタート場面)で行われるべき話なのであって、これを「合一確定の必要」(=訴訟の進行の場面)の土俵の問題として混同しないようにしてください。

 

 

第3 「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」の作業の意味

 さて、「固有必要的共同訴訟」と「通常共同訴訟」の概念の整理は、「訴訟共同の必要」の土俵で行われるべき話であると述べました。

 

 ここで、「訴訟共同の必要」とは、「その訴訟が一定の範囲の者の共同訴訟となることが要求されること」です。

 

 そして、「その訴訟が一定の範囲の者の共同訴訟となることが要求される」とは「一定の範囲の者をみんな当事者としなければ訴えが不適法となる」という意味ですから、この問題は「当事者適格の有無」の問題そのものであることがわかります。

 

 「当該訴訟において、Xのみで訴えを提起することが許されるか。当該訴訟が固有必要的共同訴訟となるのか、それとも通常共同訴訟にすぎないのかが問題となる。」という問題提起は、敷衍すると「(当事者適格者は全員当事者にしなくてはならないという民訴法の原則論を前提に)当該訴訟において、Xの他に当事者適格者はいないか」という問題提起と同義です。

※ なお、当事者適格者の全員を当事者にしなくてもよいという場合(=類似必要的共同訴訟となる場合)は、民訴法における例外的な場面です。

 

 つまり、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」という論点は、「当事者適格者の選定」という論点をその内実としていることになります。

 

 このように、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」とは、当該訴訟における当事者適格者を選定する作業であるということをしっかりと自覚しておいてください。

 

 

第4 固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別の基準

 さて、ここからは司法試験でも頻繁に出題される「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別の基準」という論点に対する回答を考えていこうと思います。

 

 受験生の皆さんは自分なりにこの論点に対する論証を既に用意しているものと思います。 

 

 その論証とは、以下のような内容であることがほとんどでしょう。

 

 「当該訴訟が固有必要的共同訴訟にあたるか、通常共同訴訟にすぎないかは、①実体法上の管理処分権の帰属態様を基礎としつつ、②訴訟政策的観点をも考慮して調整を図り、決定するべきである。」

 

 この論証の記述自体は決して間違っていないので、規範定立の結論部分ではかかる記述をしてしまって問題ありません。

 

 問題は、この規範の定立までに至る理由付けの部分です。

 

 実は、この理由付けの部分で、第3で触れた話が活きてきます。

 

 第3では、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」という論点は、「当事者適格者の選定」という論点と同じ話をしている、ということを述べました。

 

 つまり、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別の基準」も、「当事者適格者選定の基準」と同様ということになります。

 

 したがって、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別の基準」の論証でも、基本的には「当事者適格者選定の基準」の考慮要素を示せばいいことになります。

 当事者適格者の選定にあたってはどのような着眼点をもって挑むべきなのか、という点については、前回(第17回)の記事で書かせてもらいました。

 

 当事者適格者の選定の際の考慮要素としては、①「誰を当事者とすることが紛争解決にとって有効か」、②「どのような者を当事者として手続保障を図るべきか」という着眼点を持つことが必要でした。

 

 たとえば、給付訴訟の原告適格は、自らの権利者と主張する者に認められましたが、これは、自らを権利者と主張する者であれば充実した訴訟追行を期待でき、紛争解決にとって有効と言えるからです。

 

 また、給付訴訟の被告適格についても、取締役解任の訴えにおいては、当該取締役にも手続保障の与える必要があるからこそ、当該取締役にも被告適格が認められるという話でした。

 

 詳しくは、前回の記事を確認して下さい。

 

 そして、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」は「当事者適格の選別」と同様の問題なのですから、①「誰を当事者とすることが紛争解決にとって有効か」、②「どのような者を当事者として手続保障を図るべきか」という着眼点をもって論証に当たらなくてはなりません。

 

 論証の例を示すと以下のようになります。

 

 この点、通常共同訴訟と必要的共同訴訟の区別は、当事者適格の選別の問題である。

 そして、当事者適格の有無の判断にあたっては、いかなる者に対して手続保障を図るべきか、また、誰を当事者とすることが紛争解決にとって有効かという訴訟法的観点が重要である。

 もっとも、実体法上の管理処分権の帰属主体を当事者とすることで、上記訴訟法的観点からの要請を満たすことができるので、実体法上の管理処分権の帰属態様を基礎としつつ、訴訟法的観点からの調整を図るべきである。

 

 ところで、僕のイメージなのですが、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別基準」の論証においては、多くの受験生が「実体法上の管理処分権の帰属先」という「実体法上の観点」こそが「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別基準」の本質であり、「訴訟法的観点」は副次的な視点に過ぎないと考えているのではないでしょうか。

 

 しかし、厳密には論理は逆です。

 

 「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」は「当事者適格者の選定」の問題であり、「当事者適格」とは「訴訟法的観点」から決せられるべき「訴訟要件」なのですから、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」の論証の本質は「訴訟法的観点」になくてはおかしいんです。

 

 たまたま「管理処分権の帰属主体」という実体法的観点に着目することが、「紛争解決の有効性」「手続保障」という訴訟法的観点を満たすことにつながったからこそ、訴訟法的観点よりも、実体法的観点の検討を先行させているだけなのです。

 

 

第5 まとめ

 実は、僕が司法試験を受験した年の問題では、まさに「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」が問われており、第4に示した論証を思いっきりしてきました。

 

 「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」の問題が、「当事者適格者の選定」という一般的な話と同様であるということがわかっていると、論証をする際の迷いがなくなります。

 

 既に論証を用意している論点の本質部分を理解することで、自信をもって回答することができるようになります。

 

 

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