TIPPP’s blog

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第3回「権利能力なき社団」の当事者適格

 

第1 導入

 第3回は、「権利能力なき社団」の当事者適格について書いてみます。

 

 さて、いきなりですが、「権利能力なき社団」に当事者適格は認めるべきでしょうか。

 

 訴訟物も特定しないで何言ってるんだ!と思われるかもしれませんが、「なんとなく」ではあるものの、皆さんの頭の中には

 

権利能力なき社団には当事者適格が認められないのが原則である。」

 

というイメージが湧いたのではないでしょうか。

 

  そのイメージは、本当に正しいでしょうか。

 

 今回はこの点に焦点をあてて議論を深めていきたいと思います。

 

  

第2 「当事者能力」と「当事者適格」

 ところで、みなさんは「当事者能力」と「当事者適格」の関係性について考えたことがあるでしょうか。

 

 両者の関係を知っておくと整理に役立つのですが、この両者、

 

「目の荒いザル」と「目の細かいザル」

 

という表現がされることがあります。

 

 

 両者の定義を確認しましょう。

 

 当事者能力とは、「民事訴訟において、当事者となることのできる一般的資格」です。

 

 対して、当事者適格とは、「訴訟物たる特定の権利又は法律関係について、当事者として訴訟を追行し、本案判決を求め得る資格」です。

 

 この両者の違いがわかりますか?

 

 そうです。当事者能力とは「訴訟物に着目しない一般的資格」、当事者適格とは「訴訟物に着目した当該訴訟に個別の資格」なのです。

 

 両者は、「本案判決をするに値しない訴えをあらかじめ排除し、事件を選別して、裁判制度の合理的・円滑的な運用を図る」という訴訟要件であることにかわりはありません。

 しかし、当事者能力が「訴訟物とは無関係にその人に訴訟をさせていいか」を吟味するための訴訟要件であるのに対して、当事者適格は「訴訟物との関係でその人に訴訟をさせていいか」を吟味するための訴訟要件です。

 

 このように、民事訴訟法では、訴訟上の「当事者」となり得る者を、まずは当事者能力という訴訟物との関係を考慮しない「目の粗いザル」を使って大雑把に選別し、それに通過した者をさらに訴訟物との関係を考慮した「目の細かいザル」を使って精密に選別するのです。

 

 さて、なぜここで当事者能力と当事者適格の関係についての話を出したのかというと、以下の問いかけをしたかったからです。

 

 民訴法29条はわかりますよね。

 同条によると、権利能力なき社団であっても(代表者の定めがあれば)当事者能力が認められるとされています。

 つまり、同条からは、民訴法が「権利能力なき社団であっても、原則として当事者になっていいよ!」という基本的な姿勢を示していることがわかります。

 

 では、当事者適格はどうでしょうか。

 まだ、「権利能力なき社団には当事者適格が認められないのが原則である。」というイメージはあるでしょうか。

 

 前述したように、民訴法は「権利能力なき社団であっても、原則として当事者になっていいよ!」と言っています。

 とすれば、権利能力なき社団の当事者適格についても、原則としては認めてやるのが自然な考え方ではないでしょうか。 

 何度も言うように、当事者能力と当事者適格は「目の粗いザル」と「目の細かいザル」という関係にあり、ブラザーです。

 「目の粗いザル」は原則として通過させてやるけど、「目の細かいザル」は原則として通過させないよ、といった対応はいかにもデレツンです。そんなんじゃ萌えません。

 

 

 このように考えてみると、29条が権利能力なき社団に当事者能力を認めているのとパラレルに考えて、「権利能力なき社団にも原則として当事者適格が認められる」と考えるのが自然といえるでしょう。

 

 

第3 判例の考え方

1 最判昭47.6.2

 なぜ、「権利能力なき社団には原則として当事者適格が認められない」という固定観念が生まれたのでしょうか。

 

 それは、「当事者適格は実体法上の権利帰属主体にしか認められない」という固定観念があるからです。

 

 実際に、最判昭47.6.2でも以下のような判断がくだされました。

 

 まず、最判昭47.6.2では、権利能力なき社団Aの代表者たるYが当事者として、所有権移転登記手続を求めて訴えを提起したところ、被告のXが「団体A自体が当事者となるべき(Aに当事者適格があるはず)なのであるから、代表者たるYには当事者適格はないはずだ」と主張しました。

 そこで、権利能力なき社団A及び代表者Yの当事者適格の有無が問題となったのです。

 

 そして、同判決は[原告適格は、実体法上の権利(本事例では登記請求権)が誰に帰属するかで決まる]として、実体法上の権利帰属主体にだけ当事者適格が認められるとしました。

 

 その上で、本事例では、団体Aは権利能力なき社団であるため権利帰属主体にはなり得ない。したがって、Aに当事者適格を認めることはできない。対して、Aの代表者たる者は団体の構成員全員に総有的に帰属する財産の所有権の登記名義人となることが認められているため、代表者には登記請求権という実体法上の権利が帰属する。したがって、新たに代表者となったYに登記請求権が帰属し、Yに当事者適格が認められるのである。という判断をしたのです。

 

 しかし、この「当事者適格は実体法上の権利帰属主体に認められる」という観念は絶対なのでしょうか。

 

 結論から言うと、絶対ではありません。

 

 そのことは、最判平6.5.31が示してくれました。

 

2 最判平6.5.31 

 最判平6.5.31は以下のような考え方を採りました。

 

① 入会団体(≒権利能力なき社団)自体に当事者適格を認める

② その場合に入会団体の代表者が訴訟を追行するためには、総会の決議等の授権が必要である。

 なぜ、最判平6.5.31は、権利能力なき社団に当事者適格を認めたのでしょうか。

 その実質的な理由はどこにあるのでしょうか。

 

 ここで、考えてほしいですが、当事者適格とは訴訟要件ですね。

 

 訴訟要件はなぜ要求されるんでしょか。

 訴訟要件とは、「本案判決をするに値しない訴えをあらかじめ排除し、事件を選別して、裁判制度の合理的・円滑的な運用を図る」ために要求されます。

 

 つまり、実体上の権利が帰属しない者が当事者となったとしても、そいつを当事者とすることが「本案判決をするに値しない訴えをあらかじめ排除し、事件を選別して、裁判制度の合理的・円滑的な運用を図る」という訴訟法的観点から有意義であるならば、そいつを当事者としていいわけです。

 

 なぜ「実体的権利帰属主体に当事者適格を認めるべき」という考え方が浸透しているのでしょうか。

 これは、一般論として、「実体的権利帰属主体こそが必至で訴訟を遂行するであろうから、実体的権利帰属主体に当事者適格を認めておけば間違いない」と考えられているからです。

 しかし、そのことが「実体的権利帰属主体だけが必至で訴訟を遂行するであろう」ということは帰結しません。

 

 平成6年判決も、「紛争の解決のために必要で有意義であるという(訴訟法的)観点」から、「紛争を複雑化・長期化させることなく解決するために」団体自体を当事者とすることを許すのが「適切である」という論理をとっており、権利帰属主体でなくても、訴訟法的観点から考えて当事者適格を認めてよい場合があることを認めています。

 

 論理の順序としては、以下のように整理できることになります。

 

  1. 当事者適格とは訴訟要件である。
  2. 訴訟要件は、「本案判決をするに値しない訴えをあらかじめ排除し、事件を選別して、裁判制度の合理的・円滑的な運用を図る」という訴訟法的観点から要求されるものである。
  3. したがって、当事者適格も上記訴訟法的観点を満たす者にこそ認めるべきである。
  4. なお、実体的権利帰属主体を当事者とすれば、上記訴訟法的観点からの要請を満たすことができるので、実体法上の管理処分権の帰属主体に当事者適格が認められやすい。

 

 つまり、「実体的権利帰属主体でなくても、必至で訴訟を遂行する者が他にいるなら、そいつに当事者適格を認めて良い」というのが民訴法の考えです。

 

※ なお「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」の論点で、「実体的権利帰属主体が誰か、という点を第一に考えて、それを訴訟法的観点から修正する」という論理がとられますが、これは実は正確ではありません。「当事者適格は訴訟要件の問題なのだから、訴訟法的観点を第一に考える必要がある。もっとも、実体的権利帰属主体を当事者とすれば、その訴訟法的観点からもっとも望ましい」という論理が正確です。

 この部分の話は重要なので、後日書こうと思います。

  

 平成6年判決の論理をまとめると、「権利能力なき社団に当事者適格」が認められるか、という論点の論証は以下のようになるでしょう。

 

 (1) この点、当事者適格は、原則として、実体法上の権利義務の帰属主体に認められる。なぜならば、実体法上の権利義務の帰属主体こそが、当該訴訟について最も強い利害関係を有し、充実した訴訟追行が期待できるし、手続保障の充足による自己責任を問うことができるからである。

(2) もっとも、本件において、入会団体に当事者能力が認められたとしても(29条)、それによって実体法上の権利能力までもが修正させるわけではない。

(3) つまり、本件入会団体には未だ権利能力がなく、本件入会団体を権利義務の帰属主体とすることはできない。

 とすれば、本件入会団体に当事者適格は認められないとも思える。

(4) しかし、当事者適格は本来は、誰を当事者とすることが、紛争解決のために必要かつ有意義で、紛争を複雑化・長期化させることなく解決するために適切かという訴訟法的観点から判断されるべき公益的な訴訟要件である。

 つまり、上記訴訟法的観点を真に充たす場合であれば、団体自身に当事者適格を認める余地があると考える。

 

 

第4 権利能力なき社団に当事者適格を認める構成 

 では、訴訟法的観点から権利能力なき社団に当事者適格を認めるべき実質的理由があるとして、その法律構成としてはどのようなものがあるでしょうか。

 

 結論から言うと、その法律構成としては、①訴訟担当(任意的訴訟担当or法定訴訟担当)として構成する考え方(訴訟担当構成)と、②団体自身の固有適格として構成する見解(固有適格構成)があります。

 

1 訴訟担当構成

 ①の見解は、「団体」による訴訟追行を訴訟担当として是認し、「団体」自体に当事者適格を認める構成です。

 この説によれば「団体」の得た判決の効力を、115条1項2号を根拠に構成員全体に及ぼすことができ、紛争解決の具体的妥当性も図ることができます。

 

 ①の見解のように、団体に当事者適格を認める根拠を訴訟担当として構成する考え方は、判例で明示的に示されているものではなく、あくまでも学説上での有力な主張です。

 この考え方が一番わかりやすい気はするので、受験生の方々もこの考え方を採るといいと思います。

 

 さて、訴訟担当構成を採るとしても、その訴訟担当という構成自体をどのように説明するべきでしょうか。

 この点についてもいくつかの説明方法があります。

 1つ目は、権利能力なき社団の設立の際に、「何か訴訟があった際には、団体自体に訴訟追行を任せます」という構成員から団体自体への訴訟信託があったものとして扱い、任意的訴訟担当として構成するものです。

 

 2つ目は、民訴法29条が当事者能力だけでなく、当事者適格の付与まで含意していると考え、(法定)訴訟担当として構成する見解です。

 

 受験生の皆さんは1つ目の見解を採ればいいと思います。

 2つ目の見解も理屈はわかるのですが、個人的には、当事者能力にしか言及していない29条を根拠に当事者適格を認めるというのはあまりに無理があるように思います。

 

2 固有適格構成

 念のため、固有適格構成についても説明しておきましょう。

 

 固有適格構成は、当事者適格は、訴訟物たる権利関係の帰属主体に認められるのだ、という昔ながらの考え方をとった上で、権利能力なき社団には代表者名義への移転登記または抹消登記の請求権(「法律上も」ないし「実質的に)がある、と考えます。

 つまり、権利能力なき社団は、訴訟担当という構成ではなく、自己の請求権の履行請求という形で当事者適格が認められる、とするのです。

 

 その説明の仕方としては以下の2つが考えられています。

 

① 管理処分権が「法律上も」団体に帰属しているという構成

 この構成は、29条によって、団体自身に権利能力まで付与されていると考えるものです(「事件限りの権利能力」を認める見解と言われます)。

 

② 管理処分権が「実質的に」団体に帰属しているという構成

 この考え方は、最判平26.2.27において採用されていると言われています。

 同判決では、以下のような判断がくだされました。

 権利能力なき社団の構成員の総有権が問題となっている事案に限って考えれば、「実体的には権利能力なき社団に総有的に帰属する不動産について、実質的には当該社団が有しているとみるのが実態に即している」といえるので、社団への財産の帰属と構成員全員への総有的帰属が同義である。つまり、実質的には、団体自身に管理処分権が帰属しているといえるのであるから、団体自身に当事者適格を認めてもいい、という考え方です。

 

3 訴訟担当構成と固有適格構成のいずれを採用するべきか

 判例は、訴訟担当構成、固有適格構成のいずれをとっているのか不明である、という見解が学説上は有力ですが、前述のように、受験生は訴訟担当構成を採るのが穏当だと考えています。

 

 というのも、固有適格構成では、構成員全員への判決効の拡張の説明に困るからです。

 訴訟担当構成ならば、115条1項2号を使えますが、固有適格構成だと信義則による既判力の拡張や反射効を持ち出すしかないでしょう。

 

第5 まとめ

 以上をまとめると、以下のようになります。

 

1 権利能力なき社団でも、「本案判決をするに値しない訴えをあらかじめ排除し、事件を選別して、裁判制度の合理的・円滑的な運用を図る」という訴訟法的観点から有意義であるならば、当事者適格を認めることができる。

 

2 そして、権利能力なき社団に当事者適格を認める法律構成としては、以下のものが考えられる。

① 団体設立の際に、訴訟信託があったものとして扱い、訴訟担当として構成

② 29条は当事者適格の付与まで含意していると考え、訴訟担当として構成

③ 29条は権利能力まで付与しており、管理処分権が認められるが故に固有適格が認められるという構成

④ 権利能力なき社団の総有財産が問題となっている事案では、実質的に「構成員の総有」=「社団の所有」といえるので、実質的に管理処分権が団体に帰属しているが故に固有適格が認められるという構成

 

 権利能力なき社団と当事者適格の論点は、「当事者適格の本質」、「訴訟担当」を学習する上できわめて有用であり、また、当事者適格を深く理解することは、「固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別」といった当事者適格周りの他の論点の理解にもつながります。

 

 かなりエネルギーの必要な部分ではありますがわかると気持ちいい分野です。

 

 

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