第11回 「訴訟承継」を理解するためのポイント Part.1
第1 導入
多数当事者訴訟については受験生の多くが苦手意識を持っていると思います。
その中でも特に、「訴訟承継」に対してアナフィラキシーショックを起こしている受験生は多いのではないでしょうか。
「訴訟承継」を苦手とする理由としては、おそらく以下の2つのが考えられます。
- 多数当事者訴訟を勉強するぞ!と意気込んでみたが、「訴訟承継」に入った頃には力尽きている
- 「訴訟承継」の勉強のポイントがいまいちつかめない
1については、「頑張れ」としか言えませんが(笑)、2については「これだけ知っていればええで!」というポイントの紹介はできますので、克服可能であるといえます。
今回は、「訴訟承継」についてのポイントの解説を足がかりに、「訴訟承継」のなんたるかを複数回に分けて説明しようと思います。
第2 基本事項の確認
前提知識の確認をしましょう。
- 訴訟承継とは、「訴訟係属中に」紛争の対象となっている権利関係の移転などがあった場合に問題となる。
- 訴訟承継の趣旨は、①当事者の既得の地位の保障、②訴訟経済にある。
- 訴訟承継には、「当然承継」と、「参加承継」・「引受承継」がある。
- 訴訟承継の効果としては、「訴訟状態帰属効」がある。
以上の点については、どの基本書にも書いてある内容です。
この点を理解していなければ話にならないので絶対に覚えてください。
第3 論点①~「訴訟状態の引き継ぎ」の意味
さて、早速、1つ目の論点に入っていきましょう。
1つ目の論点は、「訴訟承継があった場合には必ず訴訟状態を引き継がなければならないのか」という内容です。
具体的には、以下のような設例が考えられます。
[地主Xが建物所有者Yに対して建物収去土地明渡し請求をしたところ、Yは借地権の抗弁が間違いなく成り立つと判断し、そうだとすると土地は誰のものであっても結論は同じだと考えてXの所有権につき自白(権利自白)をした。その訴訟の係属中にYはZに建物を譲渡した。引受承継させられたZにとっては、無断譲渡であるからYの借地権にのみ依存していたのでは危険であり、勝訴のためにはXの所有権自体を争いたい。しかし、Xの所有権についてはYの自白がある。Yの自白にもかかわらず、ZはXの所有権を争うことはできないか。]
この点に関しては、以下のような学説の対立があります。
1 A説(否定説)
A説(否定説 福永等)
[論証]
この点、Yが慎重に行う必要のなかった訴訟行為の効果に承継人Zが拘束されてよいとするのは問題である。
そこで、その攻撃防御方法の持つ意味が前主と承継人とで異なるのであるから、固有の攻撃防御方法に準じて考え、自白部分についての引継ぎは否定するべきである。
この学説は、「承継人の代替的手続保障が充足されていない状況では、訴訟状態の引き継ぎは認めるべきでない」という前提に立っています。
ところで、「訴訟承継」の問題と「口頭弁論終結後の承継(人)」の問題は、「既判力の拡張」というキーワードでつながっていることはご存知でしょうか。
前者は文字通りの「既判力」の拡張の問題ですが、後者は「生成中の既判力」の拡張の問題と言われたりします。
たしかに、現象的には、両者の違いは承継のタイミングでしかありません。口頭弁論終結のまさにそのタイミングで譲渡すれば「口頭弁論終結後の承継人」の問題となり、口頭弁論終結の1日前に譲渡をすれば「訴訟承継」の問題となるのです。
後述するように、「口頭弁論終結後の承継人」の範囲の論点と「訴訟承継」の承継人の範囲の論点は丸かぶりするわけですが、これは、要は両者が「既判力の拡張」というキーワードでつながっているからです。
さて、両者の議論の本質が同一であると理解したとき、「口頭弁論終結後の承継人」の既判力拡張の根拠はなんだったでしょうか。
そうです、「代替的手続保障の充足」です。代替的に手続保障があったんだから、既判力拡張されてもいいだろ!という話です。
これは「既判力拡張」の「許容性」の問題といえるでしょう。
そして、「代替的手続保障の充足」という既判力拡張の許容性の議論は、もちろん、「生成中の既判力の拡張」の場面でもあてはまることになります。
したがって、承継人の手続保障が、承継される当事者によって代替されていないのであれば、「生成中の既判力の拡張」の「許容性」が否定されることになりますから、訴訟状態の引き継ぎを否定すべきである、という議論が生まれるのです。
予備校の模範答案などでは、この学説が好まれて論じられいる印象です。
2 B説(肯定説)
[論証]
この点、①訴訟状態への拘束は訴訟承継制度の本質的要請である。
また、②引受人は係争中の、しかもマイナスの訴訟状態の付着した実体関係に自ら関与するに至ったのであるから、訴訟状態を承継することも甘受するべきである。
したがって、引受人は自ら関与していない従前の不利な訴訟状態の承継を甘受することを避けられないと考える。
この学説は、かつての通説とされていたものらしいです。
訴訟承継の趣旨はなんでしょうか。
前述したように、①当事者の既得の地位の保障、②訴訟経済にその趣旨があります。
この学説は、たとえ手続保障の充足がなかったしても、かかる訴訟承継の趣旨に鑑みれば、訴訟状態の拘束効を認めるべきであると考えます。
考え方として、①当事者の既得の地位の保障、②訴訟経済というのは、いわば、訴訟承継の「必要性」の問題ですね。
つまり、A説は「必要性よりも許容性を重視」するのに対して、B説は「許容性よりも必要性を重視」するのです。
なお、B説の亜種として、被承継人の処分的訴訟行為が信義則違反と評価される場合には、訴訟状態帰属効を否定するという見解(限定肯定説 上田、伊藤)がありますが、B説でも当然に信義則の一般条項の適用を否定するわけではないですから、B説と限定肯定説は一緒のことを言っていると整理していいと思います。
3 否定説、肯定説、どちらが妥当か
さて、A説とB説のどちらが妥当でしょうか。
ぶっちゃけ、上の論証をかけてればどっちでもいいとは思うんですが、僕個人的には、B説の方がすっきりします。
その説明(説得)をしていきます。
もう一度確認しますが、訴訟承継の趣旨、すなわち「訴訟承継の必要性」は、①当事者の既得の地位の保障、②訴訟経済にあります。
そして、訴訟承継の許容性は、「手続保障の充足」にあります。
ところで、既判力の機能と正当化根拠ってなんだったでしょうか。
既判力の機能(必要性)は「紛争解決の実効性確保」であり、正当化根拠(許容性)は、「手続保障の充足」にありましたね。
…そうなんです、実は、「訴訟承継の必要性・許容性」と「既判力の必要性・許容性」は、同じ内容なんです。
考えてみれば、訴訟承継は「生成中の既判力」の拡張の問題なのですから、その「必要性」、「許容性」が既判力自体のそれらとかぶることは当然です。
とすれば、「生成中の既判力」の底流には「既判力自体の必要性・許容性」の精神が生きていると考えるのが自然でしょう。
さて、また話は変わりますが、皆さんは、以下のような問いかけに対してどう答えますか?
「(既に判決が確定した)前訴で、過失なくして主張しなかった事情(無過失で主張できなかった事情)についても既判力の遮断効は生じるか」
この問題は、要は、「紛争解決の実効性確保」という既判力機能(必要性)と「手続保障の充足」という既判力の正当化根拠(許容性)のどちらを優先するのか、という問題です。
この点については、通説は、既判力の機能(必要性)を重視し、この場合にも既判力の遮断効は及ぶのだと、という姿勢を貫いています。
これにはちゃんとした理由がありまして、338条1項5号を参照していただきたいと思います。
338条1項5号は、他人を刑事上罰すべき行為によって攻撃防御方法の提出を妨げられたときですら、既判力が及ぶことを前提にして、再審の訴えを起こすことを要求しています。
しかも、その再審の訴えに有罪の確定判決等の存在や、再審期間の制限まで課しています。
にもかかわらず、単純に、当事者の過失によらずして提出しなかった攻撃防御方法全てにつき、遮断効が及ばないとするのは、あまりに既判力の紛争解決の実効性確保の機能を害する、とかんがえられるのです。
このように、通説の一般的な姿勢が、既判力の「許容性」よりも「必要性」を重視しているのですから、やはり、「生成中の既判力の拡張」の場面でも、「許容性」よりも「必要性」を重視するのが自然でしょう。
4 期待可能性説への言及(おまけ)
…ここまでの話を聞くと、勘の鋭い人は「既判力の期待可能性説って通説に真っ向から反するってこと?」という疑問を抱くかもしれません。
ついでなんで、期待可能性説についても言及しておきます。
まず、結論から言うと、期待可能性説は別に通説に反駁するものではありません。むしろ親和的です。
前提として、期待可能性説というのは、「前訴基準時までに提出することが期待できなかった事情については既判力の遮断効が及ばない」という見解でしたね。
ここで、期待可能性説に対する誤解を解かなくてはならないんですが、期待可能性説の「期待できなかった」というのは、いわば「『超』期待できなかった」という意味なんです。
つまり、「あー!たしかにそれ主張しておけばよかったね!でも普通そんなん気づかないよね…君は悪くないよ(^_^;)」ぐらいの「期待できなかった」では全然足りません。
もう「前訴で主張しておくことが物理的に無理!」ってくらいの「期待できなかった」が必要なんです。
この点を理解しておいてください。
表現としてわかりやすくいえば、
「基準時後の新事由に準じるくらいに前訴基準時までに提出しておく期待可能性がなかった場合には、遮断効は及ばない。」
という感じになるでしょう。
井上治典先生、という大家の学者さんがいるのですが、井上先生も期待可能性説について「第三者からの弁済があったもののその連絡が遅れたため被告が抗弁として提出できなかった場合、後訴において、既判力にかかわらず第三者弁済を主張することはできる」としており、本当に主張を期待できなかったような場合にだけ、遮断効を否定するという立場を唱えています。
つまり、期待可能性説であっても、その基本スタンスとしては、「手続保障の充足」という既判力の「許容性」よりも、「紛争解決の実効性確保」という既判力の「必要性」を重視しているのであり、「さすがにこれは…」って場合にだけ「手続保障の充足」の要請から遮断効を否定するのです。
第4 まとめ
今回は、訴訟承継が「既判力の拡張」の問題であるということを自覚していただきました。
このように「訴訟承継」という既判力の派生的制度・論点の本質を深く理解すると、大元の既判力の本質の理解に少しずつ近付いていきます。
次回も訴訟承継のポイントの解説を続けます。
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